13.家族のカタチ
春樹は2~3か月に一度帰ってきた。
一緒に住んでいた頃から連休はほとんどなかったが今も変わらないようだ。
もっとも勤務体制を知らないので、実際のところは分からない。そして敢えて聞くこともしなかった。連絡する時は子どもたちの行事くらいで、春樹からも再来週帰るというメッセージのみでそれ以外の連絡はない。
「パパだ!パパーパパーーーー!」
二人は春樹が帰ってくると全速力で走り、飛びつくように抱きついて出迎えた。そんな二人を愛おしそうに抱きかかえ頭を撫でる春樹。
「今日はパパとお風呂入る!!!!」
「ひーちゃんも!!」
「よーし、今日はみんなで入ろうか!」
夫婦仲は破綻しているが親子の絆は深かった。そんな3人を見ていると心が温かくなる。別々に暮らして春樹との距離が空いたことで、子どもたちがパパにベッタリでも以前のような悲しい気持ちになることはなかった。
離婚を考えた時期もあったが、思い直したのは子どもたちが春樹のことを心から好きだからだ。子どもたちは春樹が帰ってくる日が分かるとカレンダーに丸を付けて楽しみにしている。
「ママ、パパはいつ帰ってくるの?」
「あと10回寝たら帰ってくるよ」
「やったーーー!パパ帰ってきたらボール蹴って遊びたい。」
「ひーちゃんは、滑り台!!」
会えた時のことを想像し、両手をあげてはしゃぐ子どもたち。久々に会えた時は嬉しさで尻尾を振る犬のように春樹の周りについて歩き、離れようとしない。そんな姿を見るのが可愛くて好きだった。そんな子どもたちを春樹も大切に想っている。
『子どもたちにとって春樹は大切な存在だから、私の思いで離れ離れになるようなことはしてはいけない……。』
そして、離婚をすれば七海が育てることになり苗字が変わることも理由の一つだった。
海斗は周りに手を差し伸べることが出来るやさしい子だが、その分繊細なところがある。相手の事を考えてしまうばかりに自分の気持ちに蓋をするところがあった。嫌なことがあっても嫌と言うことに抵抗があり我慢してしまうタイプだ。
苗字が変わり、周りにイジられたら嫌な気分になっても言い返さずに塞ぎこんでしまうかもしれない。子どもたちは純粋でまっすぐな分、時としてストレートな言葉に反応に困る時もある。そうなった時に海斗は大丈夫かと心配になった。
これからも春樹とは仮面夫婦のままだと思うが、七海は春樹とは家族として付き合い、子どもたちの成長を見守っていこうと誓っていた。
☆
「子どもたちにまっすぐ向き合って母親らしくなってきた。あえて厳しく言ったこともあるけど七海が自覚を持ってくれて嬉しい。」
ある日、そんなことを春樹に言われた。
泣き止まなくて自分も悲しくなる時、いたずらで部屋中が散らかり苛立った時、ポジティブな感情ではないが、そんな時でも七海は子どもたちと向き合っていた。
向き合っていたからこそ、喜び、怒り、哀しみ、楽しみといった喜怒哀楽が今まで以上に激しく芽生え、感情の波にのみこまれて自分自身も苦しんでいた。
しかし、春樹にとっては育児の疲れやストレスなどネガティブな内容を言わなくなったことが、“母親の自覚を持ち、母親の役割を全うしていること”のようだ。そして自覚を持たせるためにわざと厳しくしてきたような言い草も不服だった。
『私は母親らしくなったわけではない。出来ないところもあるけれど、子どもたちが生まれてからずっと母親だったよ。あなたの言う母親になれたのは、”あなたに共感や励ましとか精神的に頼ることを止めただけ”だよ。』
心の中でそっと呟く。
しかしその言葉を口にすることはもうない。
七海は何も言わず春樹の言葉を聞き流した。
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