12.温かい空間
春樹が単身赴任になってからは、周りの協力もあり以前より子育てが楽しくなった。
以前は、春樹に助けを求めても「母親なんだから」「母親なのに」「母親としての自覚を持ってほしい」など七海自身の問題と捉えられていた。その度に、七海自身も自分の努力不足だと喝をいれていた。
『私がもっと頑張らなくては。なんでも自分がやらなくては……』
しかし七海がワンオペ育児だと知った周囲が出来ることがあったら手伝うと手を差し伸べてくれた。時に”一人で十分頑張っている”、“今までよく頑張ってきたね"と労いの言葉もかけてくれることもあった。その言葉に涙が溢れて仕方がなかった。
誰かに頼るのが苦手だった七海だが、少しずつ助けてほしいと声をあげられるようになっていた。今までは深い闇の中にいる孤独の涙だったが、今は周囲のサポートや言葉の温かさを受け取り安堵や嬉しさが入り交じったものだった。
海斗や陽菜の優しさもありがたかった。
海斗は、妊娠中から荷物を持とうとしたり、体調を気遣ってくれていた。妹の陽菜が産まれてからも、おむつやおしりふきを用意してくれたりお手伝いをしてくれていた。
今は食器を並べたり、洗濯物をたたむなど家事も手伝ってくれる。陽菜も真似をして「ひーちゃんもやるぅ!!!!」というので割れない箸は陽菜、少し大きめのお皿は海斗にお願いしている。
「海斗も陽菜もありがとうね。ママ嬉しい」
「全然いいよ。だってママひとりで大変だもん。かいくんがいるからもっと言ってね」
「ひーちゃんもー!!!!ひーちゃん、ママだぁいしゅき」
その言葉に七海は顔を歪めて泣いた。
涙は見せないと決めていたので子どもたちの前で泣くのは初めてだった。そして、哀しみの涙ではなくうれし泣きだった。
「ママ、泣いてるの?大丈夫?ぎゅーしよ」
「ひーちゃんがいるからね」
「かいくんも!!!」
二人は小さな手で七海の頭をよしよしと優しく撫でる。
『産まれたばかりの頃は泣いてばかりで何を想っているのか分からなかったし悲しい、つらいと思ったこともあったけれど、今はこんなに大きくなって私のことを気遣ってくれる……。いつの間にか私がこの子たちに支えられている。』
そのことが何よりも嬉しく涙が止まらなかった。七海は自分が子どもたちを育てているのではなく、子どもたちが自分を育ててくれていることに気付いた。
『私はこの子たちを幸せにする!!役目とか責任ではなくて、この子たちの事が大好きで大切だから動く。』
今までとは違う感情が七海に芽生えた。
夜、寝る時ダブルベッドに3人で横になる。
「かいくんがママの隣!!!」
「ひーちゃん!!!」
「かいくんの方がママの事好きだもん。」
「ひーちゃんだよ!!!」
「ママはどっちが好き?」
「ママはかいくんもひーちゃんも大好き。ママが真ん中で二人とぎゅっしてもいい?」
そう言って腕を両手に広げ二人を腕枕してから、ぎゅっーーと抱きしめる。
子どもたちはとても温かい。そして小さい子特有の甘い匂いがする。幸せの香りだ。
いつも平和なわけではなく、支度を全くせずに聞く耳を持たなかったり、食事に飽きてくるとご飯を床に投げたりと、腹が立つことやいたずらが止まずに怒ることもあったが、夜になると3人でベッドに入りギュッと抱きしめながら眠りにつく。
そして夜中に目が覚めて二人がすやすやと気持ちよさそうに寝息を立てて寝ている姿を見てとても幸せな気持ちになった。
「今日もありがとう。大好きだよ」
七海は、布団がかかっているか確認してから二人の頭を撫でて再び眠りについた。子どもたちと3人の生活はとても幸せだった。
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