プロローグ
11話より明るい兆しが見えます。最初の10話まで重い話が続きますが読んで頂けると嬉しいです。
【不倫】……人が踏み行うべき道からはずれること。特に配偶者でない者との男女関係。
辞書でこの言葉を引くと、このような説明が書いてあった。配偶者がいる相手との肉体関係を持つことは倫理に反するということだろう。独身の時の浮気とは責任の重みが違い人によっては社会的信用も失いかねない行為となる。
これは子どもを身籠り「母」になったひとりの女性の話だ。
***
「タレントの青柳文敏さんが、一般女性と不倫関係にあることが週刊ホープの取材で判明しました。青柳さんは、23日の…………」
倫理に反した行為と言いながらも、今日もTVやネットではタレントの不倫の話題で持ちきりだった。説明用に作られたパネルには当事者たちの関係が矢印で記されていが親しい関係だったようで矢印が複雑に絡み合っている。
(不倫、か……。あの日もこれくらい強い雨が降っていたな……。)
窓に目をやるとガラスを激しく打ち付ける雨音。七海は少し遠い目をしてあの夜をそっと思い出していた。
坂下七海は4歳年上の夫春樹と、4歳の海斗、2歳の陽菜(陽菜)の4人家族で既婚者だ。夫の春樹は医師で夜勤や休日出勤も多く家事・育児は七海が担っている。
『良妻賢母』……古いと思われるかもしれないが、結婚したのだから妻として母として家族のために生きることが自分の使命だと感じている。そして良き妻、良き母でいることが幸せな家庭を築くことだと思い、今日も家のことに邁進していた。
しかし、幸せな家庭を築くことは簡単なことではなかった。
初めての育児に不安や孤独で押しつぶされそうになった時、夫からは溜め息交じりに「母親なんだから……」と冷たい言葉と失望の眼差しをぶつけられる。
夫の理解はなく、そのうち自分が駄目な母親だと責めるようになる。
『私は母親だから……』
孤独や悲しみを感じたとき『母』という言葉で鼓舞する七海。そんな七海を支えてくれる存在はなく、土砂降りの雨の中をひとり傘もささずにあてもなく歩いている気分だった。
それでも家族4人で幸せな家庭を築くことを目標に、『母』としての役割を全うしようと子ども優先、家族優先で過ごしている。
子どもが産まれたら自分のことより家族優先、それが当たり前だと思っていた。そして、それが幸せな家庭を作るために必要なことだと思っていた。
そして『母』になることで幸せになれると思っていた。あの日、夫・春樹の決断を聞くまでは……。
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