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第二十話【完結】

 いつの時代も、世界が変わっても女同士の争いは姦しい。


「リヒャルト様にふさわしいのは私よ!」

「なんですって?! 私の方がふさわしいに決まっているでしょう!」


 リヒャルトの寵愛を求めて争う女たち。一触即発な雰囲気の中、手をたたく音が鳴り響いた。皆の視線が一人の女性に集まる。

 女性はたいそう美しかった。リヒャルトの隣に立っても見劣りしない容姿と気品。女性が一人ひとりの顔を見回す。

「皆様、一度冷静になってはいかが? いくら皆様がリヒャルト様からの寵愛を欲したところで、現状あの方の隣はすでに埋まっています。ここで争っても無駄ではないかしら?」


 女性の言葉にわれに返る人々。皆、顔を見合わせる。

「そうですわ。リヒャルト様の隣にはすでにあの方が……」

「まずはあの方を蹴落とさないと」

「そうです。そうしなければ、私たちにはチャンスはありません。今、私たちがすべきなのは争うことではなく一時的にでも協力し合い、あの方を退けることです」

「わかりましたね?」と女性が視線で訴えかけると、皆もしぶしぶ頷き返した。


 ――――ず、ずいぶん勝手なことを言ってくれるわね。でも、残念ながら私はそう簡単にやられはしないから。生半可な覚悟でリヒャルトの気持ちを受け入れたんじゃないもの。見てなさい。絶対に返り討ちにしてやるわっ!


 意気込んだ瞬間、体が揺さぶられ意識が浮上した。

「マリー」

「なに? ……ってリヒャルト?!」


 睨みつけた相手がリヒャルトだと気づき、ソファーでうたた寝をしていたマリーは飛び起きた。

 心臓の音がうるさい。とんでもない夢を見た。あれは予知夢か、はたまた正夢か。

 今も激しく動いている心臓を服の上から押さえながらリヒャルトを見上げる。


「どうした?」


 首をかしげるリヒャルトを見て、むっと顔を顰めた。


 ――――リヒャルトのこのルックスとハイスペックさ。なにより皇太子という地位。明日の婚約お披露目パーティーでは絶対に気を抜かないようにしないと。リヒャルトを狙っている女性たちがなにをしかけてくるかわからないもの……。


 ()()を見越してガルディーニ王国から帰ってきてからずっと寝る間を惜しんでいろいろと対策を練ったのだ。聖女としての知識は備わっているが、貴族令嬢としての知識には自信がない。

 リヒャルトは「マリーは聖女として十分シュヴァルツァー皇国に貢献してくれている。気にすることはない」と言ってくれたがそれでは自分自身が納得できなかった。つけ入れられる隙はできるだけなくしておきたい。


「寝ぼけていただけだから気にしないで。それで、リヒャルトはなんの用なの?」

「用がないときてはいけなかったのか?」

「そ、そうじゃないけど」

「ならいいだろう。今日の仕事はあらかた終わらせてきた。マリーも今日の分は終えているのだろう?」

「まあ……でも明日の最終確認がまだ」

「詰め込みすぎはよくない。どうだ。俺と散歩でもしないか?」

「……わかった」

 マリーが頷けば、リヒャルトは嬉しそうに笑った。



 皇城内にある庭園は二カ所。一カ所は城の周りにある登城した者なら誰でも見ることができる庭園。季節にふさわしい花が楽しめるのが特徴だ。もう一カ所は皇族のみが入ることを許されている庭園。いわゆる秘密の庭園だ。


「ねえ。本当に私がここに入ってもいいの? まだ私、婚約者でしかないんだけど……」

「ああ。父上からは『ガルディーニ王国での活躍の褒美に』と特別に許可をいただいている。だが、この中に入ったらなにがあっても結婚からは逃れられなくなるぞ?」


 扉に手をかけたまま、マリーを覗き込むようにリヒャルトが見つめる。表情はからかっているようだが、その目は真剣だ。後、少しだけ不安も滲んでいる。

 マリーはリヒャルトの顔を真顔で見返した後、ふんっと顔を背けた。心外だというように。


「私が、その覚悟なしにプロポーズを受け入れるわけないでしょう」

「……そうか。なら、いい」


 ほっとしたように息を吐き出し、リヒャルトは扉を開いた。

 扉の隙間から、みずみずしい草花の香りがかおってくる。次いで、花の香りと同じくらい強いハーブのような香りも鼻腔をくすぐる。


「これは……」


 中に入って、驚いた。勝手に、秘密の庭園には珍しい花がたくさんあるのだと思っていた。その貴重性ゆえに秘密の庭園なのだと。実際、見たこともない花もあるのでその予想は間違っていないのだろうが……ハーブ畑らしきものがあるとは想像していなかった。


「これってハーブ?」

「ハーブ、というか薬草だな」

「薬草……」

「ああ。シュヴァルツァー皇国の皇族は魔法や武力面ではほぼ無敵。だが、毒にはさほど免疫がない。もちろん、幼い頃から毒を摂取し、慣らしているため簡単に死ぬことはないが、それでも俺たちを殺すなら毒を使う方法が一番確率が高い。この薬草は万が一を考えて用意してあるものだ」

「なるほど……」


 マリーの反応はリヒャルトが思っていた反応とは違ったらしく「どうしたのか?」と首をかしげている。マリーは苦笑した。

「解毒は聖女の専売特許だと思っていたから……」

 少なくともガルディーニ王国では毒も聖水で対応していた。マリーが知る限りは……だが。

「ああ。確かに聖女なら毒もなんとかできるんだろう。だが、その力に甘えてばかりでは救える命も救えなくなるだろう? 聖女は一人しかいないんだからな。聖女になにかあれば? 服毒した対象が複数人だったら? 聖女がすぐに駆けつけられなければ? 実際、マリーがシュヴァルツァー皇国にきてくれるまではこの薬草に助けられていたわけだしな」

「実際って……毒殺されかけたことがあるってこと? 大丈夫だったの?!」


 慌ててリヒャルトの全身を見る。リヒャルトはなぜか嬉しそうに笑った。


「見ての通り大丈夫だ。すぐに解毒薬を飲んだから後遺症もない」


 ほっと息を吐く。


「さすがシュヴァルツァー皇国ね。ガルディーニ王国とは大違い。彼らはちょっとした病気やケガでも聖女の力に頼っていたもの。まあ、他国から見ればガルディーニ王国は魅力がない国でしょうから戦争も、毒殺される機会もなくてある意味平和だったのかもしれないけど……」

「だろうな。でも、それもこれからは変わる」

「ええ」と頷き返す。


 アンドレアには忠告してあるが……今後ガルディーニ王国はシュヴァルツァー皇国の衛星国になったことで他国からちょっかいをかけられる可能性があるのだ。それに、貴族の中にはアンドレアの判断に納得していない者もいるだろう。前国王たちへの神罰を見たあとだから、しばらくは大人しくしているだろうが……油断はできない。

 どちらにしろ、アンドレアの在位している間は荒れるだろう。けれど、それを治めるのがアンドレアに課せられた使命。対処できなかったとしたらそれはアンドレアが王となる器ではなかったということ。

 仕方ないとは思いつつも、せっかく生かしたのだから頑張ってもらいたいとも思う。


 薬草畑に向かって祈りを捧げる。

 ――――せめて祝福だけでもしておこう。大切な薬草が枯れないように、虫がよりつかないように。

 祝福の光が畑を包み込む。心做しか葉が元気になったように見えた。


「なにをしたかはわからないが……ありがとう」

「いいえ。さ、花を見よう。珍しい花があるんでしょう?」

「ああ。外国から取り寄せた花もあるぞ」

「見たい。どれ?」


 二人は身を寄せあい、存分に二人だけの時間を、庭園を堪能した。



 ◇



 そして、婚約お披露目パーティー。マリーは朝から気合いを入れていた。


「顔色よし! スタイルよし! コンディションよし!」


 この日のために調整してきたのだ。マリーはもちろん、マリー付きの侍女たちも頑張ってくれた。その集大成が鏡に映っている。鏡越しに侍女たちがマリーに見惚れている姿が見える。


「今日のマリー様は聖女を通り越してまるで女神の化身のようですわ」

「本当に。お美しい」

「殿下も惚れ直すことも間違いないですわ」


 口々に褒め称えてくれる侍女たちのおかげでマリーの機嫌も上昇し続けている。

 ――――さあ、どこからでもかかってらっしゃい。


 気合は十分でマリーは部屋を出た……ところですぐにリヒャルトが待っていることに気づいた。


「リヒャルト?」

「……」


 話しかけても返事はない。もう一度名前を呼んだが、反応は返ってこなかった。

「ちょっと、リヒャルト?」

 腕を引いて、ようやくリヒャルトの意識が戻ったようだ。


「これは……すごいな」

「え?」

僭越(せんえつ)ながら、本日のマリー様のお召し物の説明をさせていただきます」


 なにがすごいのか尋ねようとしたタイミングで後ろに控えていたはずの侍女たちが解説を始めた。さながら一流シェフが本日のコースについて説明をするように。


「まずはこのドレス。露出は控えめですが、体のラインに沿ったデザインで、マリー様のスタイルの良さを引き立たせています。また、一見無地に見えますが、実は生地に特別な素材を使用しており、光の下で動くたびに夜のとばりに星がきらめいている様子が再現できます。まさに、マリー様にぴったりのドレスかと」

「そして、ドレスに合わせたこちらのアクセサリー。シンプルながらも一つ一つは極上品。シャンデリアの下では一等星のような輝きを放つこと間違いありません」

「ヘアスタイルはあえて弄らずにそのままにしております。絹のようなマリー様の黒髪には余計な装飾は必要ないかと。メイクはマリー様の神秘的な瞳と本日のコーデに負けないようにしっかりめにしております」

「いかがでしょうか?」


 リヒャルトは侍女たちに向かって「よくやった」と返した。

 誇らしげな侍女たちと、満足げなリヒャルト。ついていけないのはマリーのみ。しかし、今はなにも言わない方がいい気がして黙っていた。



 ◇



「リヒャルト皇太子殿下と、聖女マリーのご入場です」

 扉が開き、リヒャルトのエスコートで会場へと入る。反応は上々だ。おおむね好意的な雰囲気を感じる。進んだ先には玉座がある。そして、その近くには皇族が座る席。すでに自分たち以外の皇族は腰かけていた。マリーとリヒャルトが本日の主役なのだから当然と言えば当然だが。


 皇帝の前に立つと、おもむろに皇帝が立ち上がった。マリーとリヒャルトに向かって、その後ろにいる観衆へと向かって口を開く。


「先日のリヒャルトとマリーの功績は皆も耳にしているだろう。このたび、縁があり二人は婚約を結んだ。長年リヒャルトの婚姻については私も頭を悩ませていたが、今となってはそれも必要な時間だったのだと思える。ニュクス様のいとし子であるリヒャルトと、ニュクス様に最も近いといわれている聖女マリー。これを運命と言わずしてなんというのか。この二人がいればシュヴァルツァー皇国の未来は安泰だろう。皆、盛大に祝ってくれ!」


 皇帝の勢いある宣言に応えるように皆が歓声を上げ、一気に室内の温度が上がった気がした。

 ――――ええ?! 思っていたのと全然ちがう!

 てっきりもっと静かに拍手だけがおきて、中には不満の表情や敵意を飛ばしてくる者がいるだろうと思っていた。


 ところが実際は……

「歴史的な瞬間に立ち会えるなんてっ!」

「光栄ですな!」

「実は私の息子が騎士団に入っていましてね。お二人の活躍を直接見たと……」

「なんですと?! その話もっと詳しく」

「私も聞きたいですわ!」


 老若男女問わず、マリーとリヒャルトの話で盛り上がる面々。想定外の反応にマリーは心底戸惑った。

 ――――な、なんでこんなに皆受け入れ態勢がばっちりなの?!


 会場が熱気で包まれる中、カールが手をたたいて皆の注目を集めた。

「こちらはお二人の出会いから、活躍についてまとめた本でございます。冊数には限りがありますので、おひとり様一冊までとさせていただきます。なお、最初の十冊には名絵師が描いた挿絵がおまけとしてついております」

「「「「「「なんだ(です)って?!」」」」」」


 皆の目がギラリと光り、カールに向かって人が集まっていく。


「え? は? な、なにあれ?」

「あれか? カールの説明そのままだが……あの調子なら元手はすぐに回収できそうだな」

「はあああああ?! あんなのを作るためにお金をかけたの?!」

「あんなのじゃないぞ。皆の要望があって作ったものだ」

「み、みんなって?」


 リヒャルトの指さした先には、皇族のみなさまが楽しそうに例の本を手に取って読んでいた。視線に気づいた皇女様と皇妃様がこちらへ手を振っている。マリーは頬を引く付かせた。


「手を振り返してやると喜ぶぞ」

「は、はは」


 やけくそで振り返せば皇族の女性陣が黄色い声を上げ、皇帝はなぜか満面の笑みを浮かべ、頷き返してくる。


 恥ずかしい。恥ずかしくてたまらない。


「な、大丈夫だったろう?」

「うぐ」


 どうやら、婚約披露パーティーが近づくにつれて、マリーが殺気立っていたことにリヒャルトは気づいていたらしい。まあ、杞憂で済んだのならそれはそれでよかった……と自分を納得させようとしたところでカツカツというヒール音が近づいてくるのに気づいた。

 音がした方向に勢いよく顔を向ける。


「マリー様!」


 仁王立ちの美少女。

 ひざ丈のピンクドレスに、ツインテール。庇護欲をそそりそうな見た目をしているが、その瞳には微かに殺気が込められている。なにより、先程の足運びを見て普段から鍛えている者だというのがわかった。

 ――――きたわね!

 リヒャルトが動くよりも先にマリーが動き、美少女と対峙する。


「マリー様! ぜひ、一戦お相手願います」

「マリー受ける必要はないぞ」

「リヒャルトは黙っていて。いいわ。相手になってあげる」


 仕方ないとでもいうような溜息が聞こえてきた。心配してくれるのだろうが、これは私の戦いだ。邪魔はされたくないし、負けるつもりもさらさらない。

 ――――まさか口喧嘩ではなく肉弾戦で挑んでくるとは思わなかったけれど。さすが、シュヴァルツァー皇国ね。


「負けないわよ。あなたにリヒャルトは渡さないから」


 宣言すると、ぴくりと美少女の顔が動いた。が、なにも言い返してはこない。

 いつの間にかマリーと美少女を囲うように人垣ができていた。カールがレフェリーをしてくれるらしい。


「はじめ!」


 掛け声とともに美少女がマリーに向かって走ってきた。伸ばしてきた手を内側から巻きつけるようにしてはらい、そのまま投げの姿勢に入ろうとしたが逃げられる。思わず舌打ちがでそうになったが、耐えて次の攻撃を待つ。美少女が今度は足技をしかけてきた。が、マリーはそれをステップで避け続ける。

 ――――今!

 タイミングを合わせ、足払いをしかけた。美少女の体が傾く。このままでは地面に倒れる。慌ててマリーは美少女の背中に手を差し入れ、抱き留めた。

 会場には沈黙が満ちる。

 美少女は目を見開き、マリーの腕の中で動きを止めたままだ。


「大丈夫?」

「あ、は、はいっ」


 美少女の頬が微かに朱に染まった。その瞬間、無言だった観衆が一斉に口を開いた。なにを言っているのかはわからないが場が興奮しているのは伝わってくる。


「マリー、放してやれ」

「え、ああ。はい」

「改めて紹介しよう。彼女はマリー直属の白薔薇騎士団……の団長になる()()()()()

「……はい?」


 リヒャルトの説明に固まる。いったいどういうことかと美少女に視線を向けると、美少女は床に膝をついていた。きらきらした目でマリーを見上げている。


「マリー様。私はアンヌ・チアルディと申します。マリー様の御身を守るには心もとない実力かもしれませんが、これからもっと精進いたします。ですから! どうか、私の忠誠を受け入れてはいただけないでしょうか!」

「マリー嫌なら断っていいんだぞ。まだ予定だからな」

「そ、そんなっ! リヒャルト様、本当によろしいのですか?! 私以上にマリー様の護衛にふさわしい者はいませんよ。男の護衛なんてリヒャルト様も嫌でしょう?!」

「まあ……アンヌの剣の腕は本物だ。俺が保証する。先程のでは不安なら剣の腕も一度見てみるのはどうだ?」

「ぜひ!」

「ちょ、ちょちょちょっとまって」


 二人に慌てて待ったをかける。


「え? これってリヒャルトをかけた戦いではなかったの?」

「なんのことだ?」と首をかしげるリヒャルト。美少女は「違います」と即答した。

 数秒たってようやく理解する。顔に一気に熱が集まった。


「マリー、まさか俺のために?」

「う、うるさい!」

「マリー様。それで私の忠誠は」

「受け入れます! これからよろしくおねがいします!」

「はい!」


 浮かれた声色のリヒャルトを無視して美少女アンヌと手を握り合う。恥ずかしすぎてリヒャルトの顔を見られなかった。


「きゃっ!」

 いきなりの浮遊感に驚く。

「俺とマリーは少し休憩をしてくる。皆は好きなようにたのしんでいてくれ!」

「え、ちょっ、あ、ああ」

 リヒャルトに担がれ、会場を後にした。



 休憩室で二人きり。

 ソファーにそっと降ろされ、私は顔を両手で覆った。その両手をそっと大きな手で握られる。


「マリー」

「な、に」


 ゆっくりと外される手。リヒャルトの嬉しそうな顔が目の前にあった。


「今の俺の気持ちがわかるか?」

「知らない」

「そうか。なら、教えてやろう。嬉しい。惚れ直した。好きだ。かわいい。愛おしい。キスしたい」

「ぐっ、ぐぐぐ、うぐっ、あっ、ぐぬぬ」


 リヒャルトの言葉一つ一つに、妙な呻き声を返す。


「マリーと早く結婚したい。マリーと出会えてよかった。マリーが俺の理想だ」

「……ま、まあこんな聖女他にはいないでしょうしね」

 照れ隠しでふんっと顔を背ければ、思いのほか真面目なトーンで返ってくる。


「別に聖女だからすきになったんじゃないぞ。たまたま好きになった女が聖女だっただけだ。マリーが聖女じゃなくても俺はマリーを皇太子妃に望んだ」

「そんなまさか」

「俺の理想は高いんだ。そうでなければこの年になるまで俺に婚約者がいないわけないだろう」

「……それは、まあ、たしかに?」

「だろう?」


 と言いつつも、なんだかんだいずれはその立場にふさわしい相手を迎え入れていたのだろう。国のために。想像するとむかむかしてきた。


 でも、結局リヒャルトの隣に選ばれたのは、リヒャルトに求められたのは私だ。


「リヒャルト」

「マリー」


 求めるようにリヒャルトの首に手を回せば、リヒャルトも背中に手を回し、顔を近づけてきた。目を閉じれば唇に思ったよりもかたい、けれど熱い唇が重なった。


 ガルディーニ王国では『子爵令嬢()』は『真の聖女』としては望まれなかった。でも、今となってはそれでよかったと思う。心置きなくガルディーニ王国を出ることができたし、こうしてマリー()を求めてくれるリヒャルトと一緒になることができたのだから。


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