いじめられっ子の荒行
玉木さんは最近、幽霊につきまとわれているらしい。たいして困っているわけではないが、話しておきたいらしい。
「幽霊っているんですねー……どうでもいいですけど」
そんなやる気の無さそうな言葉と共に彼女の体験を語り始めた。
「私は小学生の頃、いじめに加担していましてね、多分その報いだと思うんですが、別に何か害があるわけでもないんですよ」
その、どういったことがあったのでしょうか? お話し出来る範囲で構いませんので……
「ああ、暴力的なことはしてませんよ。ただ単にその子がいじめられているのを放置しただけです。他の人はともかく、私は直接相談を受けたんですが教師に相談せずに握りつぶしたんですよ。でも、教師も知らないわけないと思いますよ、小学校の教師ですよ? 知らないわけないじゃないですか」
どうやら彼女は話を握りつぶしただけらしい。隠蔽にも関わったとのことだが、直接手は出していないそうだ。
「で、こうして大学生になったわけですが、今になってその子が出てくるんですよね。始めは一人暮らしのアパートの中に出てきたんですよ。何も言わずに部屋の真ん中にたっているんですよ。私の方を恨みがましい目で見てきますけど、実害はないんですよね。鬱陶しいので盛り塩をしたら消えたんです。それも数日のことで、盛り塩を溶かしてから現れるようになったんですけどね」
それからはいたちごっこの如くその子を追い払うために様々な呪具やまじないを試しているらしい。しかしどれも数日は効くのだが、耐性をすぐに持って現れてくるらしい。
「だから彼氏も呼べないんですよ、迷惑です。おかげで除霊の方法もあらかた試しましたしねえ……でも、最近になって同窓会があったんですが、その場で何であの子が私のところへ現れ続けたのかなんとなく分かったんです」
同窓会で何があったんですか?
「直接手を下していたいじめっ子がげっそり痩せていたんですよ。なんでも私の部屋に彼女が出てきてからしばらくして彼女の家にも現れるようになって、彼女の方は実害があるらしいんですよ。なんでも食事中に口の中に手を突っ込まれたり、寝ようとするとずっとラップ音を鳴らされたり、生活に支障が出るようになったらしいです。彼女が恨まれるのは当然だと思ったんですがね、なんとなく私のところに先に来た理由が分かったんです。『抗体』って知ってますか?」
私は突然の言葉に戸惑いながらも頷いた。
何故医療の話が関係してくるんですか?
「興味があったのでその子に話を聞いてみたんですが、いろいろ対策はしているらしいんです。その対策というのが私が試した後のもののことが大半なんですよね。つまりあの幽霊になった子は私のところで除霊に耐性を付けてからいじめていたこのところに行ったんじゃないかなと思うんですよ。ほら、一度かかったウイルスには耐性がつくって言うじゃないですか? つまり彼女は私のところで『修行』みたいなことをして、除霊されないようになってからいじめっ子のところに来たんじゃないかと思うんですよ」
幽霊にそんな概念があるのだろうか? とはいえ、十分耐性を付けたのか、滅多に玉木さんのところには現れなくなったらしい。いじめっ子の方は未だに恨みがましい顔で現れるのですっかり体調を崩したそうだ。