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人魂の炎上

「聞きたいとのことなので話しますけど、これは怪談じゃないんじゃないかな? どちらかと言えば笑い話のような気もしますが、構わないんですか?」


 和田さんはそう前置きをしたので私は『聞かせてください』と言い話を伺うことにした。本人曰く、まったく怖くないけれど、それでいいならという条件で話を聞いた。


「少し前まで田舎に住んでいたんですがね、地元に嫌われ者がいたんですよ。何処にでも居るような嫌な奴でした。しかし、村社会って奴ですかね、ロクに定職にも就かずにぶらぶらしているソイツは陰口をたたかれていました。私は必死に関わらないようにしていましたがね。陰口が嫌いとかじゃないです、アイツと関わりたくなかったんです」


 その男は田舎に住んでいるというのに町内会に入りもせず、鼻つまみ者になっているのは承知の上で平気で暮らしていたらしい。都市部ではないため、多くの人が関係無いこととは割り切れなかったそうだ。名前は情けをかけて伏せさせて欲しいといわれたので記名は避けることにする。


「で、まあその男なんですが、順当に嫌われていったんですが金だけはあったんですよ。だから商売をしている人たちはあまり悪い顔も出来なかったようですね。とはいえ、裏でボロクソに言われてはいましたが、表立って戦おうとは思わなかったようですね」


 そんな物騒な界隈だが、世の中は移り変わっていくもので、その男も病気を患ったそうだ。一応金は払うということできっちり治療は続けたそうだがそこは村社会、やはりそう先は長くないと皆が噂したそうだ。


「アイツも大体察してはいたんでしょうね、チンピラまがいの態度に磨きがかかって普通にクズのようなことをやっていましたよ。まあそれも自分で立てている間だけでしたが。最後は入院してそれなりに苦しんだそうです、知ったことではないですが、一応身寄りがなかろうと葬儀だけはしなければということで、坊主を呼んで読経を適当にしてもらってさっさと無縁仏に放り込んだそうです」


 悲しい話なのかもしれないが、自業自得という部分は結構大きい。ただ単に素行の悪い人間が死んだと言うだけの話ではないだろうか?


「そこまではただのクズと言うだけの話なんですが、問題はソイツを墓地に埋葬してからですよ。坊主にも嫌われていたようで、ロクに供養もされなかったそうなんです。で、その男が幽霊になって墓をさまよっているなんて噂が立ったんです。大半の人はあんな奴が迷い出ようが知ったことではないという態度でしたが、一応対処したいということで私にお鉢が回ってきたんです」


 墓に入ったなら後は寺のやることのような気もするが、その男がよほど嫌われていたのか坊主は放置しておいていいと死者に接する役目とは思えないような態度だったそうだ。一応確認だけしてくれということで和田さんが夜の墓を覗く役目を任された。面倒な話だがしがらみというものもあるし、仕方なく頷いて夜に墓地に向かったそうだ。


 それで、幽霊は実際に出たんですか?


 私がそう訊ねると、和田さんはなんとも言えない顔で笑い、その場で見たものを教えてくれた。


「出ましたよ、ソイツのものだと思う人魂が浮いていました。真夜中に墓へ行くなんて嫌な役目でしたが、その時は怖いとは思えませんでしたね。なにしろ人魂は数個浮かんでいたんですが、酷いものでしたよ」


 酷いものとはどういう意味でしょうか?


「無縁仏なので当然納められているのはその男だけじゃないでしょう? で、その石碑の前に一つの人魂と、他多数の人魂が出たんですよ。その男の人魂はすぐに分かりましたよ。何でだと思いますか?」


 私は突然の問いかけに首を振った。彼は愉快そうに答える。


「他の人魂は青白く浮かんでいるだけなんですがね、一つの人魂だけやたら真っ赤になって炎のようなものをあげていたんです。あなたもネットで炎上している人がいるのは知っているでしょう? どうやら魂だけになると本当に炎上してしまうようですね。他の無縁仏にすら嫌われているというのだから救いようがない奴なんでしょうね」


 そう言って和田さんは笑った。炎上事件というのはネットに触れている限り身近なものだが、幽霊の世界でも炎上らしきことはあるらしい。しかもそちらでは表現としての炎上ではなく実際に人魂が燃えていたそうだ。


 和田さんは最後に『俺も身寄りなんてないですからね、あの男と同じ墓に葬られるのも嫌でそこを出て都会に来たんですよ。こっちじゃ普通の人魂さえ見ませんがね』とだけ言っていた。どうやら死んでも全てがチャラになる程都合の良い世界にはなっていないらしい。

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