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ドラレコの目

Kさんは右手の親指が無い、別にその筋の人というわけでは決して無い。ただそのきっかけとなった事件に未だに納得がいっていないそうだ。


「気のせい、と話を聞いた人みんなに言われたんですけど、絶対アレは実際にあったと思うんです」


 そう言って彼はその時のことを話してくれた。


「あの時は会社が修羅場でみんな残業してたのさ。ああ、そうだそうだ、東京に住んでると分からないかもしれないけど、あの頃住んでいたところは地方で車を持っていて当然の地域だったんだ。いや、そういう地域があると知らない人がいるかもしれないから念のためね」


 なるほど、地方で仕事が立て込んでいたときのことですか?


「そうそう、なんていうか、納期が近くってさ、みんな必死にやってんだよね。一人だけ定時で帰るわけにもいかないでしょ? 当時は氷河期時代でさ、就職出来ただけでも御の字だからね、我儘を通せるような時代じゃ無かったんだ、売り手市場の世代が羨ましいよ」


 それで、一体何が起きたんですか?


「ごめんごめん、話が飛んじゃったね。起きたこと自体は大したことじゃないんだけどね、当然の如く残業で日をまたいでたんだ、もちろんサビ残ね。そういう時代だったんだよ。で、ようやく一つの案件が終わったからみんな大喜びで解散となったんだ。本当に一仕事終えたっていうのはああいう状態を言うんだと思うよ。で、当然みんな自家用車に乗って帰るんだ。酒こそ飲んでいないけど、日をまたいだんだからみんなまともに運転出来る状態だったかは怪しいね。知ってる? 地方じゃ歩くのもおぼつかない年の人が自動車を運転してるんだよ? それはそれで怖い話だよね」


 まあ……それは確かに怖いですけど……


 この人の話は関係無い方向に飛んでいくな……先にお酒を奢るのはマズかったかもしれない。


「いや、年をとるとついつい昔話がしたくなってよくないね。その日、まあ零時を超えていたわけだけど、帰宅するために自家用車に乗ったんだ。翌日は代休だったから風呂にのんびり浸かってベッドでのんびり寝るのを期待して運転席に乗り込んだんだ。キーを回して……あ、最近の車はボタンなんだったね、とにかくエンジンをかけて車を出したんだ。それから自宅に向けて少し走ったところで前に赤い自動車が付いたんだ。その……良いことではないんだけどね、時間が時間だし、一刻も早く帰りたかったからね、結構車間を詰めちゃったんだよ。そこでその車に黄色く光るものが張ってあるのを見つけてさ、そこには『録画中』という文字と目のマークが入っていたんだ。当時はドライブレコーダーって珍しい方だったけど知ってはいたんだ。だから少し車間を取ろうとブレーキを踏もうとしたんだ。その時にそのシールに描かれていた目が動いたんだ。嘘じゃない! これだけは間違いなく本当なんだ! 誰も信じちゃくれないけどさ、その時足が吊って、道路脇の電信柱にドンと……まあそんなわけで事故でこんな手になっちゃったんだ。生きてるだけマシだけどね」


 目が動いたのが本当だとして、それと足が吊ったことに関連はあるんでしょうか?


「僕は間違いなく関係あると思っているけどね、到着した警察も、診断した医者も過労でまともに運転が出来ない状態だったと決めつけたよ。ダメ元であの赤い車のことも話したんだけど、Nシステムだっけ? アレに映っていないので間違いなくそんな車はいなかったと言われたよ、全て過労で見た幻ってわけさ。で、会社は一応労災扱いはしてくれたけど退職させられてね。会社都合だったのと、退職金を上積みしてくれたので仕方ないね。免許は失効しちゃったからさ。で、東京に出てきて車を運転しなくて良い場所で働いてるってわけだ」


 それで、結局真相は不明ですか?


「そうだね、不明さ。赤い車も目の動くステッカーも無かった、それが事実として残るらしいよ。労働環境を考えれば幻の一つだって見るだろうってみんな言わなくても思ってんだろうね。信じるかどうかは自由だよ。でも未だに思うんだよね、歩道を歩いているときに車道を赤い車が走っていくことがあるんじゃないかってさ。それが怖いから深夜まで残業した日は一番近いネットカフェに泊まってるよ、夜道は怖いからね。信じるかは自由だけど、一応話を聞きたいって言われたからね。これが全てだよ」


 結局、真相は不明だ。ただ、事故があった記事はあったし、彼の親指がその事故でおそらく失われたのだろうという事実はある。書き残すべきか悩んだが、怪談をするためだけに指を落とす人は居ないだろうというわけで一応記録しておく。

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