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ナイフマン

 天神さんからの体験談だ。最近妙なものをよく見るので話しておきたいと言っていた。彼女によると、自分に何かあったときのために記録に残しておいて欲しいそうだ。


「半年前くらいでしょうか、そこで不気味なものを見たんです」


 一体何を見てしまったんですか? 幽霊の類いだとは事前に聞いていますが……


「はい、一応幽霊なのだとは思うんですよ。というか幽霊であってほしいんです」


 彼女の言葉に何か引っかかるものを感じた。幽霊の方がいいとは穏やかな話ではない。


「初めて見たのは電車が遅延して大急ぎで出社しようとしていたときです、近道をしようとして裏路地に入ったんです。近道なんですがあまり綺麗な道ではないので普段は避けているんですが、背に腹は代えられませんから」


 そして裏路地に入ったものの、誰一人いないような道なのでさっさと通り過ぎたかったそうだ。


「急いでいたんですが、何か光るものを持った人が遠くに立っているのが見えたんです。深く考えず、『この道、私以外にもつかうんだ』と思いながら急いで駆け抜けました」


 その時点では何も気にしなかったそうだ。会社にいる間は何も起きなかったらしい。そんな朝にチラリと見えただけの光景を忘れて一週間はたってからのことになる。


「その日は休日で日暮れになるまで飲んで帰宅することになりましたが……夕焼けの中を歩いているとやや遠くの方にこの前の男が立っているのが見えました。一気にこの前のことを思いだしたんですが、やはり手にキラッと光るものを持っているんです。それを今度はじっくり見ると、刃物でした。包丁なのかナイフなのかは分かりません。ただ刃先が光を浴びて光っているのが見えたんです」


 その場で急いで駆けだし、家まで帰ったときにはどの道を通ったかさえ覚えていないそうだ。


「一応警察にも連絡はしたのですが……なにしろ私以外に目撃した人がいないんです。普通あんなに目立っていれば通報されてもおかしくないはずなのに、目撃したのは私だけだったんです」


 他の目撃者がいないのはどう考えてもおかしいそうだ。刃物をちらつかせていたのに見たのが自分だけというのは納得出来なかった。とはいえ、警察に連絡をして、パトロールを強化してもらうことくらいしかできることは無い。仕方ないので警察が早く逮捕してくれることを祈って、出来るだけ安全な場所を通ることを選ぶことにしたそうだ。


「それからが問題なんです。その男が町中に普通に現れだしたんです。毎回光り方は違うものの全て刃物をもっていました。しかし人混みの中でそれを見たときですら誰一人気にしないんです。そこでようやく気がつきました、この男は私以外に見えていないんだと」


 それ以来男の影に震えながら日常生活を送っているらしい。あの男の顔に見覚えは全く無いが、必ずある程度の距離を取って刃物をちらつかせる以上の事はしないらしい。


「もう諦めつつあるんですけどね……一応今のところ凶器を持って立っているだけですから、害は無いんです。この手の話だとだんだん近寄ってくると言うのを聞きますが、その男は必ず近づくわけでもなく、つかず離れず刃物を見せてくるんです」


 それ以外の害はないそうだし、気にしなければ安全なのかもしれない。それでもやはり自分にしか見えないというのは不気味だし、他の人に言っても変に思われるだけだと思っているらしい。


「だから怪談として残してもらえれば、私に何かあったときに何かの手がかりになると思うんです」


 そう言って彼女は一息ついた。


 それを聞いたのはしばらく前になるが、彼女の訃報はまだ無いので実際に無害な脅してくるだけの幽霊なのかもしれないと思っている。

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