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日本怪奇譚集  作者: にとろ


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女の警告

 智恵さんは現在事務で働いているが、以前は専業主婦だった。働きに出た理由は家の中に出来るだけ居たくなかったからだそうだ。何か恐ろしい目に遭ったらしい。


「一体何があったんですか? 女性の社会進出とかいう理由でもないんでしょう?」


「そんな大層な理由じゃないです。ただ、自宅に長く居るのがどうしても怖いんですよ」


 そこまで恐れるものとは一体なんなのだろうか?


「まあ気になりますよね、実はウチの旦那ですけど、なかなか昔は女遊びが酷かったんですよ。私もよく結婚なんてしたなと思いますよ、それも若気の至りというものかもしれません」


 それからため息をついて話は続く。


「問題は旦那と付き合っていた女の霊が家のそこかしこに出るんですよ。迷惑なことですが諦めました」


 どのように出てくるんですか?


「始めに見たのは家の中に立っているだけの髪の長い女の霊でした。あの時は心臓が止るかというくらい驚きましたよ、今じゃ驚きもしませんがね」


 なんでもないことのように彼女はそう言った。どうやらその程度の事は騒ぐようなことでもないらしい。


「始めはそれくらいの無害な霊だったんですが……私が無視を続けているとその女の霊の体に徐々に傷跡が増えて言ったんですよ。私の勘ですが多分あれは生き霊なんでしょう。旦那のところに出てくれと言いたいですよ、迷惑な話でしょう?」


 それはなかなか大変ですね。


「ええ、しかも何人も幽霊が出てくるようになりまして、次の女は家のベランダから飛び降りるんですよ。始めは下を見てみましたが、何一つありません。『ああ、霊なんだな』くらいに思いましたよ」


 しかし何故旦那さんに霊が見えないんですか?


「分かりません、あの霊たちが私を追い払いたいのかもしれませんね、しかし今では少し違うのではないかと思っているんです」


 違うとは一体何が……


「あの女は多分夫が碌でもない人間だぞと警告してくれているんじゃないでしょうかね、私だって自宅のローンにお金を出していますからね、出て行くわけにもいかないんですが、あの人たちはそんなこと知ったことではないんでしょう」


 それからも他の生き霊などが出たりはするんですか?


「しますよ。お風呂の蓋を開けたら女が沈んでいたり、押し入れを開けたら女が体育座りしていたりします。一体何人泣かせてきたんだって思いますよ。よくあんな人数を泣かせられますよ、いやな才能を持った夫だと思っています」


 その……大丈夫なのでしょうか? 危険などは無いんですか?


「私には無いようですね。夫の方は知りませんよ。ただ、最近『なあ、知らない男がいたりしないか?』と聞いてくることが時々あるので、多分女の夫に化けて出られたんだと思いますよ。あの人は既婚者でも関係無く手を出していましたから」


 今後も夫婦で暮らしていくつもりなのでしょうか?


「そうですね、一応そのつもりですよ、まあ夫の方は生き霊を見始めてから体調不良だって騒ぐのでそう長くは無いような気がしています」


 それで話は終わったのだが、最後の一言を言っているときの彼女は口角を上げていたので、どうやらその旦那さんは今の妻にすら良く思われていないようだった。

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