子供と鬼ごっこ
まだ土曜日に学校が休みでは無かったころの話だ。小泉さんは小学校で奇妙なものを見たらしい。
「未だにアレがなんだったのかは分かりません。ただ、いいものではないんでしょうね」
そう言って話を始めてもらった。彼によると、小学校低学年の時期に土曜日ということで今では死語だが所謂半ドンであり、昼に帰ったらみんなで遊ぼうと約束をしていた。
「それで、遊ぶ場所の問題なんです、近場には公園くらいしか遊ぶ場所はありません。テレビゲームも一応ありましたが、何しろまだ同時にプレイ出来るのが二人とか言う時代ですから、どうしてもそれなりの人数を集めると外で遊ぶことになったんです。幸いまだ夏の始めでしたし、今ほどの猛暑ではなかったんです」
そこでみんなで宿題が終わったら公園に集まろうという約束になった。小泉さんは帰るなりさっさと宿題を終わらせて、昼ご飯にカップ麺を食べ、大急ぎで公園に向かった。
「で、公園に行ったわけですが、誰一人いないんですよ。約束の時刻には十分余裕があるのでみんな宿題に手こずっているのかなと思ったんです。ただ、宿題は漢字の書き取りや算数のドリルですから、それほど時間がかかるような内容ではないのでおかしいなとは思いました」
公園でベンチに座り、真っ青な空を見上げる。雲一つ無い青空が広がっている。ついついうつらうつらと意識が薄れかけたところだ。
「ぼんやりしたところで『遊ぼう』と声がしたんです。ああ、友達がようやく来たかと思って体を起こすとなんだか古くさい格好をした子供が一人いたんです。もちろん、古くさいと言ってもあの頃でももう既に古くさいと言える格好ですよ。いえ、古くさいというのは適当ではないかも、古くさいと言うより古いと言った方が正しいでしょうか。とにかく、ボロボロの布で作られた服を着て裸足の子供がいたんです。頭がハッキリしていないせいかそれを奇妙だと思わなかったんです」
そして子供は鬼ごっこをしようと言い出しました。一応当時もうすでにいろいろな玩具はありましたから何一つつかわない鬼ごっこで、さらに二人というのは明らかにおかしいのですが……
「何故かそれがごく自然のことに思えて二人で鬼ごっこを始めたんです。じゃんけんで鬼を決めました、はじめの鬼はその子です。私は早速逃げ始めたんです、広いとは言え公園ですから限度はあります、とにかく二人で鬼ごっこを始めたわけですが、彼が数を数え終わって追いかけ始めたんです。問題はその顔でした、鬼ごっことは言いますが、その子の顔は真っ赤になり牙がチラチラ光って本物の鬼のようでした。私は混乱しながら必死に逃げたんです。逃げ続けたわけですが足に限界が来ました、その子はすごい勢いで迫ってきます……」
そのとき『おい!』という声で目が覚めたんです。
「私を起こしたのは友達の一人でした。起きた場所はベンチの上で、時間は五分と経っていませんでした。『お前、何寝てんだよ』とは言われましたが、混乱しつつ周りを見渡したのですが、その子は影も形もありません。だから忘れることにしたんです。きっと眠りかけたときに見た夢だったのでしょう」
その後彼は『たとえ私が異様に汗をかいていたとしても夢だったのだと思いたいです』と言った。
「ちなみにその頃住んでいた町は私が住んでいた頃よりだいぶ昔に空襲を受けたことがあるそうです、それが関係あるのかどうかは分かりません」
ただ、彼が言うのは『分かりたくないというのが本当のところかもしれません』と言うことだ。結局、その子のことは何一つ分かっていない。彼に言わせれば『分かりたくもない』そうだ。