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校則の意味

 日向さんの地元である海辺の町では子供は海で遊んではならないと、そのあたりに一つだけしか無い小学校の校則で決まっていたそうだ。


「今でこそブラック校則だのと言われていますが、当時は校則を守っていない人は基本的に不良扱いでしたからね。髪も染めてはいけないしお化粧なんて論外でした。スカートの長さまで一々チェックするんだから何か深い理由があるのだと当時は思っていました。結局、校則の大半に大した理由が無いと気がついたのは大人になってからですがね。ただ、海で遊んではならないと言う校則だけは立派な意味があるものだったようです」


 彼女はその町で子供時代を過ごしたが、当時はもう既にテレビゲームが普及しており、海でわざわざ遊ぼうという物好きはほぼ小学生にはいなかったそうだ。


「ただ、少し不思議だったのは、大人ってゲームばかりやっているといい顔しないじゃないですか? それなのにあの町の小学生は事あるごとにゲームソフトやマンガとか真面目な子だと小説まで、いろいろな家遊びの道具をたくさん与えられていました」


 当時は恵まれているだけだと思っていたらしいが、その理由は彼女が中学に上がってから、夜中に目が覚めた時に分かったという。


「町が海に隣接していましたからね、窓を開けると海が目に入るんですよ。だからその時もお手洗いを済ませて少し水を飲んで寝ようと台所に行ったときに窓から海が見えたんです」


 始めは気がつきませんでした。しかし窓の外がぼんやりと光っていたんですよ。燃えるようなものは無いはずですし、イカ釣りのようなこともしていないはずです。そこで何が光っているのかと思って窓を見たんです。


 そこから見えたのは人魂……なんでしょうかね? 緑色の火球なんですよ、人魂って白かったり青かったりは聞きますけど緑色って聞いたこと無かったんですよね。それをじっと見ていると、勝手口の方へ足を運んでいる自分に気がついたんです。そこで大急ぎで部屋に戻って布団を被って寝ました。暑い日だったんですが、翌日汗だくで目が覚めたときに何故か寒気がしたんですよ。


 朝食をとるときにその話題を家族にすると『二度と夜に出歩くな!』と父が激怒したんです。普段はすごく温厚で、怒声を上げるのを聞いた事なんて無かったんですが……とにかくアレは禁忌に近いものだとなんとなく察しました。


 それから大学進学でその町を出るまでは寝る前に水筒を一本水で満たして、夜中に喉が渇いたときはそれを飲むようにしました。結局アレがなんだったかは分からないのですが、多分あれは子供を引き寄せるんじゃないかと思うんですよね、だから海で遊ぶのなんて禁止して当然……なのだと思うんですよ。根拠のない憶測ですが、校則の意味を初めて知ったのがあの事件でしたね。


 幸い同級生の訃報なんて聞きませんでしたし、みんなそろって卒業することができました。今でもあの校則が残っているのかは分かりませんが、市長が代わってから今では海水浴場を売り出し材料にしているそうです。地元の人以外に被害がないならそれでいいとは思うんですがね、ただ、どうしても地元に帰るのは億劫になりましたね。


 そうして話は終わった。彼女は冠婚葬祭以外の行事で地元に帰ったことは無いらしい。両親は向こうからホテルを取って会いに来てくれるそうだ。それに不満を言われたことは無いし、むしろ両親も乗り気だそうなので、きっと地元に帰ることは無いだろうということだった。

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