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田舎の町と山の女神

 伊藤さんは小学生の頃住んでいた田舎町で奇妙なものを見たという。今では都市部に住むようになって長いのですっかり見なくなったそうだが、未だに納得のいく説明は付かないらしい。


「私は小学生までは田舎に住んでいたんです。喘息の発作とかもありましたし、空気が綺麗な方がいいだろうということでそれなりに田舎の町に住んでいました。ああ、具体目は伏せさせてくださいね?」

 私はもちろん地区の特定ができないようにすると言ってから話を伺った。


 田舎……にもいろいろあると思いますが、あそこは山間の町でしたね。税金で建てられたハコ物はありましたが、そんな立派な建築物もロクに利用されず、手入れも人件費削減というわけでコストカットされていたので見た目が立派な分余計に田舎感を出していました。


 田舎だけあって山があって町には川も流れていました。今ではどうなっているか知りませんが、当時は小川で遊ぶこともありましたね。


 それで一応喘息はよくなってきたんですよ。一段落付いて家族で落ち着けたような気がしていたんです。しかしね、その町でよく分からないことが起きるんですよ。毎年説明の付かない亡くなり方をする人が出るんです。田舎ですし当時は今ほど熱心に死者の見聞がされていたわけでもないでしょうが、それでも明らかにおかしな死に方をしても警察は動かないんです。子供心に不思議に思ってましたよ。


 知り合いのおばあちゃんが山菜を採りに入って溺死した件は今でもハッキリ覚えていますよ。よくしてくれた人なんですが、山の中で溺死ですよ? ああ、もちろん山の中の池や川でとかそんな話じゃないんです。山菜を採ってくると言ったところは水気なんて無縁の場所ですよ? そんな所で溺死するなんてどう考えてもおかしいんですが、誰一人それに疑問を持たなかったんですよ。私は当時こそよく分かっていませんでしたが、今ではおかしな事があったとハッキリ分かりますよ。


 それ以外にも、偶然山からの落石に当たった人や、平地で転んで頭を強く打つ人もいました。どちらも理論上はあり得ますが、落石は一個だけでしたし、平地で転んだ人もまだそこまで足がおぼつかない人ではなかったんです。偶然と片付けることもできますが、そんなに沢山の偶然が僅かな期間で起きる事ってあるんでしょうか?


 でもそれらは我慢していれば済むだけの話だったんですよ。問題は私が見た夢です。夢の中には女の人が出てきて、それがなんだか後光が差しているように光が見えるんです。その人は『十年後にもらう』とだけ言って私の夢に現れたんです。一体何の事かは分かりませんでしたが、親に話すと血相を変えて父も母も実家に連絡をしていました。


 それからの行動は早いもので、こっそり夜逃げするように町を出て母方の実家にしばらく住んだんですよ。当時はわけがわからなかったんですが、あの山について検索すると女神を祀っていると資料にありましてなんとなく納得はしたんですよね。多分、あのまま町にいたら持って行かれたんだと思います。


 結局、町を離れたので十年経っても何もありませんでした。私は無事だったのですが当の町はその年、土砂崩れや川の増水、地震などでかなり悲惨なことになったようです。ところで一つ聞きたいことがあるんですが……


「なんでしょうか?」


「これって私のせいなんですかね? 私が逃げたせいで結構な人数が怪我をしたり死んじゃったりしたんでしょうか? 今でも私が残っていればあんな被害はなかったんじゃないかなって思うことがあるんです」


 私はその問いに、「偶然でしょう、世の中にはそういったことはよくあります」としか答えることができなかった。

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