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毎日の挨拶

 天野さんは最近スマホを買ったそうだ。彼女は決して年を取っているわけではないのだが、なんとなくケータイで間に合っていたのでスマホに変えていなかったのだが、最近好きなマンガがゲーム化したということでスマホへの機種変を決めたそうだ。ところがスマホに変えてから奇妙なことが起きているそうだ。


「今時……と思われるかもしれませんがスマホにしなくても間に合ってたんですよ。知り合いに会うたび『スマホにしないの?』と言われたのでそれも原因なんですがね……」


 そうして彼女はよく分からないまま携帯ショップに足を運んでおすすめとされた機種を購入したそうだ。それが良いものであるかどうかは判断ができなかったのだが、店員さんに『ゲームをしたい』と言ったところ進められた機種で、ゲームは実際に動いたので、一通りメッセンジャーを入れて、スマホに変えた旨を連絡先に送り、周囲からは『ようやく変えたんだ』と言われつつゲームを楽しんでいたらしい。


 その時、ゲームのフレンドからの挨拶が届いたらしい。そのゲームのデイリーミッションにフレンドへの挨拶というものもあるのでおそらく特に意味の無いミッション消化のための挨拶だろうと思った。しかし受け取らないとフレンドがミッションをクリアしたことにならないので、一応開くだけ開いておこうと思いメッセージ一覧の手紙アイコンをタップした。


「可愛いですね」


 ただそれだけのメッセージだった。挨拶でもなんでもない、ただのゲーム上のハラスメント行為だとすぐに分かった。しかし課金をしているわけでもないソーシャルゲームだ、運営に連絡するほどのことでもないと思い、そのメッセージを送ってきたアカウントを開いてブロックしておいた。おそらくこれで十分だと思っていたそうだ。彼女は、「今にして思えば考えがあまりにも甘すぎた」そうだ。


「それはただの始まりでして、翌日にも挨拶が届いたんですよ、内容は『好きです』の一言でした。私も自分で可愛くないなんて言うつもりはないのですが、ゲームのアカウント越しに姿が分かるわけもないでしょう? 結局そのアカウントもブロックしておきました。ゲームを削除すれば解放されるのは分かっていたのですが、リセマラで大当たりを引くまで繰り返して最高レアの三枚抜きをやったんです。ゲームから離れるのがいやだったのでそれはやりませんでした」


 そう言った彼女の顔は沈んでいた。そこでいったん会話が止って、それから話し始めるまですこしの時間を要した。


 それからも毎日のようにストーカーみたいなメッセージが送られてきたんです。おかしいのはそのゲームは検索サービスのアカウントに紐付ける方式なので、同じ人がハラスメントをしているとしたら毎日のように新しいアカウントを取っていることになるんですよ。そのサービスは確かに複垢は禁止されていませんが、人間かどうかのチェックが入った後携帯番号まで推奨してくるので、そんなに毎日のようにアカウントを取っているとアカウントをまとめて消されてもおかしくないんですけどね。


 それからも延々とアカウントを変えながらメッセージは届いたそうだが、彼女はいい加減嫌気がさしてえ無視をすることにした。ブロックするから新しいアカウントで突撃してくるのだろう、ならば名前を覚えてそのアカウントからのメッセージは受けるだけ受けて無視すれば向こうにできることは無いと思ったそうだ。


 それ以降は完全に無視を決め込むと特定のアカウントはメッセージを送り続けてきたそうだが、ついに送られてくることがなくなるときが来た。


「実際は届き続けた方がまだマシだったのかもしれませんね」


 そのアカウントが消えて、メッセージが届かなくなったのは、勤めている会社の隣の部の同期が亡くなって葬式後の四十九日だったそうだ。最後に彼女は『私もいつかは死ぬのでしょうが、天国にせよ地獄にせよ、その人と同じところに行きたいとは思いませんね』といって話を閉じた。

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