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廃病院の折り鶴

 Aさんは昔は柄が悪く、悪友のBとCと一緒にちょっとした悪さをして回っていたものだという。


 話をしてくださるということで聞こうと思ったのだが、もしかしたら昔の武勇伝のようなものが出てくるかもしれないと少し不安になった。


「実はですね、昔の仲間を一人亡くしまして、今ではこんなスーツなんて着てますがね、あのことがなければいい年して半グレのようなことをしていたでしょうね」


 そう言って自分が生き方を改めたきっかけになったできごとを語り始めた。一応心霊的なものも関係があるらしいので安心して聞くことにした。


 アレは……もう十年くらい前になりますかね、三人で廃病院に入ってやろうという計画を立てたんですよ。向こう見ずというのは怖いもので、地域に廃病院があると誰かが肝試しがてらに入ってやろうと言いだしたんですよ。反対……はしませんでしたね。臆病者だと思われたら負けみたいなところはありましたから。


 地元に院長が亡くなって放棄された病院があったんです。廃病院というとおどろおどろしいですが、まだ放棄されたばかりで外見は普通の病院なんですよね。違いといえば夜に照明が無いことくらいでしょうか。昼間に見れば貼り紙をされていないとそこは営業中であるかのように間違っても無理のない病院でした。


 なお悪いことに病院なので当然現役の時は警備システムが入っていたのですが、放棄されてからはもちろんそんな管理なんてされていません。だからすこし強引になれば簡単には入れてしまう環境が整っていたんですよ。


 発起人はBさんだった。彼はオカルトの類いを一切信じていないが、やはりそういった場所には何かがあるかもというスリルは感じられるらしい。多少の怖さはあれど、命の危険は無い。そう信じて廃病院に行くことを提案した。


 Aさん含め、拒否したら臆病者になるので誰も反対は出来なかった。そうしてその晩、廃病院へ乗り込むことになった。当時は三人とも親との関係が悪く、夜中に出歩こうが何も言われないし詮索もされないため、侵入するにはうってつけの夜中の零時を集合時間にした。


 そうしてその日の深夜、集まった三人はBさんが見つけていたガラスの割れた裏の窓から院内へと侵入した。


 考えてみれば当然の話だが、医療廃棄物はきちんと廃棄されており、診察室のような場所だったが、大してそれっぽい雰囲気も感じられなかった。入院患者は数えられるほどしか入れない病院なので探索はすいすいと進んでいった。なんら恐れるもののないことに拍子抜けしつつ、診察室から病室、手術室など入れる場所は片っ端からは侵入していった。


 ある病室に入ったときに折り鶴を見つけた程度で、それをBがポケットに入れて『戦利品だ』と言ったりしていた。その後、高額な機械などは当然置かれておらず、退屈な部屋を回って窓から脱出した。それでその日は終わったのだった。


 それは翌日の夜に起こった。Bさんから電話があったのだ。何故だか妙に焦った声でまくしたててきた。


「おい! あの病院はヤバいぞ! 俺……もしかしたら死ぬかも……」


 いつになく混乱しているBさんを落ち着くようになだめて何があったのか聞いた。


「俺が折り鶴を持ち帰ったのは知ってるよな? ほら、あの金の折り紙で作られたヤツだよ」


「ああ、そういや持って帰ってたな。何かあったのか?」


「何かあったじゃねえよ! 夢の中にガキが出てきて『あそぼ』って言うんだよ! アイツの手に俺が持ち帰った折り鶴があったんだ、もしかしたらあのガキは俺を連れて行く気なのかも……」


「落ち着けよ、夢だろ? 気になるなら折り鶴を返してお祓いでも受けたらどうだ?」


 そう提案したら沈んだ声が返ってきた。


「折り鶴はポケットに入れたまま洗濯機にかけたからもうぐちゃぐちゃなんだよ……元になんて戻せねえよ……」


「じゃあお祓いだけでも受けておけばいいだろ?」


「そうだな……そうするよ」


 なんだかとてもBさんらしくない様子だったが、一応お祓いを受けると言うことで納得させた。その翌日、Bさんの訃報が届いた。お祓いを受けにいく途中で交通事故に遭ったそうだ。


 それからBさんの葬儀に参列して以来、なんとなくCさんとも折り合いが悪くなり疎遠になってしまった。結局、あの病院に何かがいたのかは分からないそうだ。


 ただ、Aさんは「安易にそういった場所には近づかない方がいい」とだけは念を押して私に言った。私はそれに頷いてAさんを見送った。彼が出て行ったあと、ドリンクバーのコーヒーを飲みながら窓の外を見ていると、Aさんが不安そうに歩いて行く後ろを少年がトコトコついて行っていた。あの少年がBさんが言っていたのと同じものなのかは分からない。ただAさんはその少年にまったく気付いていない様子なので指摘するのはやめておいた。

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