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日本怪奇譚集  作者: にとろ


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車の走り屋

 山崎さんは以前、車を格安で譲ってもらい、酷い目にあったことがあると言う。


「いやああんな言い車(車名は伏せる)を譲ってもらえるとは思いませんでしたよ。車検は残っていましたし、メーターもそんなに回っていないのに数万円と名義の手続きさえすれば譲ってくれるなんて言うんですよ? 当時は先輩の優しさだと思ってその話に飛びつきましたよ」


 今思えばすこしは怪しむべきだったと彼は言う。


 事故車とかそんなことはなかったんですよ、たまに事故車を処分するために人に押しつけるとかいう話があるじゃないですか、一応気になったのでその辺を洗ってみたのですが本当に問題無い車だったんです。


 当時の先輩に喜んで代金を支払い、手続きを踏んでその車は名実ともに山崎さんの物になった。2シーターのスポーツカーなので軽とはいえそれなりに格好がついた。これに乗って峠でも走ろうかなといろいろな考えが浮かびました。


 それでマニュアルの車は教習所以来乗っていなかったので慣らしのつもりで少しだけ町中を走ったんです。クラッチの感覚は一日もあれば十分取り戻せましたね。そして平日一週間かけて慣れたので休日はアレで遠出をしようと思ったんですよ。


 そうして訪れた日曜日、カーナビに少し遠くの観光地をセットして走ることにした。


 自動車は何の問題も無く走っていく、しかし何故か妙に目的地が遠い。いや、行ったこともあるところなので遠いと言うより時間がかかっていたんです。普通の速度でこの時間をかければ間違いなく着いているような時間でした。


 妙に思って携帯で現在地を調べられないかと車を止めました。スマホならもっと簡単なのでしょうが当時はまだありませんでしたからね。


 調べたところ、目的地から逆方向に走っていたことが分かったんです。カーナビに従ったんですよ? あり得ないと思いました。結局目的地に行くのはいったん諦めて自宅に戻るようにしたんです。カーナビはあてに出来ないので道路標識を頼りに帰ろうとしたんです。すると何故か行きと同じくらいの時間をかけても戻れませんでした。そして何故か着いたのは初めの目的地の観光スポットでした。わけも分からず車を降りて周囲を見渡しましたが間違いなく初めの目的地でした。


 おかしいなと思いつつ、もう太陽が沈みかかっているので車に戻って再び走らせて帰宅したその頃にはガソリンがかなり減ってしまっていた。車自体に問題は無いのだろうが、こんな事があったと先輩になんとなく相談をしてみた。カーナビの問題なら取り替えればいいだろう。その程度に考えていた。


「そうか、お前もか……」


 先輩の声は沈んでいた。それからあの車を何故あの値段で手放したのか教えてくれた。


「多分なんだがな、あの車は走るのが好きなんだよ」


 私は少しポカンとしてから話の続きを聞きました。


「俺もな、始めはカーナビのせいだと思ったんだよ。でも最新型を取り付けても同じ事になるんだ。何故か明後日の方向に走っていってとにかく時間がかかる。おかげで少し遠くに行こうとするとガソリンが空になるんだ。時間もかかる指導にも不便でな、お前は車を探しているって聞いたんで他の人なら上手く乗れるのかと思ったんだがな……スマン、あの車は売り払ってくれ、パーツ単位にバラせばあんなことは起きないだろうし、俺に払った分の元くらい取れるはずだ」


 そう言って先輩は売却先を紹介してくれたんです。


 走るのが好きな車、そんな奇妙な話を聞いてその車は結局どうなったのか彼に尋ねた。


 ああ、売ってませんよ。実家が遠いんでそこまで走るとガソリンがちょうど空になるくらいだから車の方も寄り道しないんですよね。実家までの往復専用車として使っています。割り切れば割と便利な車ですね。


 そう言って山崎さんは微笑んだ。どうやらその車は当分の間車本来の走るという役目を全うすることが出来るようだと思った。

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