表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日本怪奇譚集  作者: にとろ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

69/331

保存の利かない冷蔵庫

 後藤さんは今、実家で暮らしているそうだが、その背景には一人暮らしをしたときの怪現象があるらしい。その事について話を伺った。


「実家暮らしと言われると肩身が狭いですがね、流石にあんなものを見ると一人暮らしは出来ませんでした」


 当時、大学に進学した後藤さんは一人暮らしをさせてくれと直談判したそうだ。志望校に合格し、家からも通えなくはないのだが、やはり大学生にもなったなら一人暮らしを体験したい。そんなわけでわがままを言って一人暮らしをさせてもらったそうだ。


「アパートはあっという間に見つかりました。不動産屋に行くと目玉物件が出ておりトントン拍子に決まったんですよ。ワンルームですが、バストイレ別のそれなりに良い物件でしたし、家賃も高すぎるようなこともなく、ここでならとあっさりお金を出してくれることが決まったんです」


 今にして思うとあまりにも安いですがね、告知事項もなかったので事故物件と言うことはないはずなんです。そんなものが何故悠長に店頭に貼られていたのかは分かりませんでした。とにかく掘り出し物の物件ということでさっさと引っ越したんですよ。


 実家からも通えない距離ではないって言いましたよね? なので持ち出す荷物は最低限にしていつでも実家に帰れるようにはしていました。もっとも、当時はここでなら好きなだけ遊べると思い戻るつもりなんてさらさらなかったんですがね。


 おかげで引っ越しはいくつかのバッグに詰め込んだ荷物を持ち込むだけで済みました。家具は最低限のものが置いてありましたから、日常生活をするのに必要なものは少なかったんですよ。


 そうして順風満帆の一人暮らしを始めて初日、買ってきたものを冷蔵庫に入れて寝た。自炊はするが、初日は食材の購入だけをして明日から始めようと思っていました。


 問題は翌日に起きました。朝、冷蔵庫を開けると昨日買ってきたお肉が全て変色していたんですよ。半額品を買ったとかでは決してないんです。冷蔵庫はきちんと冷えていましたし、そんな突然中のものが痛むような原因はないはずなんですよ。


 しかし痛んでしまったものは仕方ない、その日は肉を生ゴミにして野菜だけの野菜炒めを食べたそうだ。


 おかしな事と言えば冷蔵庫にばかり起きましたね。一晩寝て目が覚めると冷蔵庫の中の一つが必ず食べられないようになっているんですよ。お肉や野菜はまだいい方で、牛乳が痛んでいたのをラッパ飲みしようとしてシンクに吐き出したようなこともありましたね。


 一晩おくと必ず冷蔵庫の中の一品が傷んでいる。怪現象と言えばそうだが、彼女は諦めて冷蔵の必要が無いレトルト食品や缶詰などとパックご飯で過ごすことにした。冷蔵庫に入れさえしなければ傷むことはない。いったんはそれで解決したように思えた。


 それを一週間くらい続けた頃ですかね、奇妙な夢を見たんですよ。老婆が冷蔵庫を開けて『無い……無い……』とこぼしている夢でした。いえ、夢のはずなんですがね、リアルな室内に僅かに発光する老婆が冷蔵庫を漁っている姿はゾッとしました。


 そうして目が覚めたんですけどね、ピーピーと音がしているので、その音で目が覚めたのですが、音を出しているのは冷蔵庫で、ドアが開いてその警告音が鳴り続けていたんです。もちろん寝るときにきちんと閉めたのは確認していますよ。そもそも使わないようにしていたので開けてもいませんしね。となるとその夢といやでも結びついてしまって……結局アパートは引き払いましたね。


 結局、実家に戻ってそのまま暮らしている後藤さんだが、幸いあの老婆の幽霊に憑かれたということもなく、実家では怪現象が起きたりはしていないらしい。退去するときにそれとなく不動産屋に以前の住人に老婆がいたか聞いたそうだが、あそこは昔から学生ばかり入っている部屋だと言われたそうだ。あの時の不気味さからどうしても一人暮らしをする気にはならないと後藤さんは語った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ