夏の終わりの線香花火
左藤さんは子供の頃、夏休みの終わりにした体験が忘れられないという。話しておきたいと言うことなので話を伺った。
「怖い話じゃなくて申し訳ないんですがね、なんとも奇妙なものを見たんですよ」
それは中学生の夏の頃の話だそうだ。
今でも不思議なんですがね、夏休みに田舎で花火をしていたんですよ。ああいえ、もちろん花火大会みたいなものではなく家の庭でやるような花火セットのことです。
都市部では色々うるさいですからね、自由に花火が色々出来ないので田舎に帰ったときの楽しみの一つでしたよ。
その日は花火が出来る日で、楽しみにしていたんです。帰省したときの楽しみでしたよ。
とはいえ花火セットくらいですからね、どんどんと火を付けては綺麗な炎を眺めて過ごしていましたよ。楽しかったですね、今じゃ花火も気軽なものじゃなくなりましたからね。
残念そうに彼はそう言って話を進めた。私はこれが心霊現象に繋がるのだろうかと少し不安になりながら話を聞いた。
「ロケット花火から手持ち花火まで色々やりましたね。何一つおかしな事は無かったんですが問題は最後にとっておいた線香花火でしたね」
線香花火って今は大抵紙製じゃないですか? 昔遭った藁で持ち手が出来ているヤツは最後まで火が持つでしょう? 紙製だと火薬部分が燃え尽きたら消えるはずじゃないですか。
でも、その線香花火はパチパチと音を立てながら燃えていったのですが、先の方の火薬が入っている部分がすっかり燃え尽きてからも何故か火が消えなかったんです。別に炎になったとかそういうわけでもなく、ただと手も小さな火花を上げながら持っている指近くまで燃えたんですよ。手に届きそうになったので思わず水の中へ放り込んでしまいました。
パチッと音を立てて線香花火は消えたわけですが、何故かその時父親が青い顔をしていたんです。そして祖父はなんだか悲しげな雰囲気を出していました。すこし父と話し合っていましたが、祖父は自分の考えを曲げなかったのか、最終的に父の方が折れたのだろうと思いました。
家系的なものですかね、どちらも譲ることがなかったのですが、流石に父も祖父にはかなわないらしく、意見を通せなかったようですね。
その日で田舎からは帰ることになったのですが、最後に祖父が『小遣いだ』と言って一万円をくれたんです。当時は中学生ですよ? そんな金額をポンと出せるのも今にして思えば妙に気前がよかったですね。父はその高額な小遣いに口を挟むことはありませんでした。
そうして都会に帰ってきたのですが、数日後には田舎にとんぼ返りすることになりました。祖父の葬儀があったからです。まだまだ元気そうな祖父がどうして急逝したのかは分かりませんが、とにかく家族総出で葬儀を開いて慌ただしい休みを過ごしました。
話はそれで終わりなんですがね、祖父が何故あんな高額をポンとくれたのかはそういうことだったんでしょうね……
田舎に帰省する度にお墓には参っていますが、祖父の墓はまだまだ綺麗なままですね。出来れば自分がこの墓に入る前にあの時のことを父から聞きだしてみたいものですよ。
そう言って彼は微笑み、それで話は終わった。なお、彼は父親との関係は良好だそうだが、あの時のことをいくら聞いても絶対に何一つ教えてくれないそうだ。