記念植樹
東海林さんは都市部に生まれ都市部で育ったそうだが、いくら自然が無かろうが、やはり昔ながらの怪現象は存在しているのだと確信したできごとがあったそうだ。
「まあ……大した話じゃないですよ。ただ俺が大学生だったときに妙なものを見立ってだけです」
そう言って彼は昔話を始めた。
ああ、アレは随分と前になりますかね、やはりね、こういうところに住んでいると空気が悪いんですかね、喘息になったんですよ。根本的になんとかするなら引っ越すくらいしかないんでしょうが、両親ともに近所に就職していましたからね、そこから離れることは出来ませんでした。
それで小学校も高学年になった頃でしたか、なんとか生活は出来るようになったので友人を集めてテレビゲームをしていましたよ。当時は時代なので外はあまり空気が綺麗ではありませんでしたから両親も外で遊べなんて言ってきませんでした。だからそれなりにたのしい生活を送っていたんですよ。
しかし、いくらか経って、一人で家の中にいるとバッサバサと音がしたんです。気にはなったのですが、そんな音を立てるようなものは無いですし、気にせずゲームを続けたんです。そして音も止んだのでそのまま夕食を食べて寝たんですよ。そうしたら夜中に目が覚めましてね、金縛りですよ。アレはもう体験したくないですね。金縛りに科学的な説明がつくことは知っていましたが、自分で体験するのはまったく別の話ですよ。
そして金縛りで動けないところでまた『バッサバッサ』と音が聞こえてきたんです。その音は部屋に近寄ってきて、いよいよ姿を現したんです。見えたんですがね……
「それが木だったんですよね。金縛り状態だったので根元が見えませんからどうやって動いていたのかは分かりません。しかし緑の葉っぱを大量の茂らせた木が俺のまわりを回ったんです」
怖かったですよ。でも何故かその木は何をするでもなく延々と俺のまわりを回っていくだけでしたね。敵意のようなものは感じませんでした。そしてしばしそれを見せられた末、意識が途切れて気がつくと朝でした。
アレがなんだったのかは知りません。しかしそれほど悪いものでもないのではないかと思っています。何しろそれが起きて以来、ずっと患っていた喘息がすっかり良くなったんですよ。
結局、しばらく後になってあの木の正体を知ることになったんですよ。夏休みに父親の実家に行くと一本の木がほとんど枯れていました。庭木の一本でしたが確かに俺の身炊きに間違いありませんでした。親父にあれはなんの木なのかと聞くと、爺さんが俺が生まれたお祝いに植樹したものだと聞きました。もう既に鬼籍に入っていましたが、アレが爺さんの思いが生み出したものなのか、あるいは木に意志のようなものがあったのかは分かりません。ただしそれですっかり健康になったので夏休みの間に小遣いをはたいて枯れそうな木にホームセンターで買った肥料を供えておきました。
「不思議な話なんですがね、それからずっと健康になったんです。だから俺は誰に守られているのかは分かりませんが、当分は心配ないと思います」
なお、当該する木は肥料の効果があったのか、次の夏休みに行ったときには青々とした葉を繁らせていたそうだ。