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二郎

 二郎さんは昔、自分以外に見えない友人がいたという。それについて語っていただいた。


「ええ、あれはまだ田舎に住んでいた頃のことでしたね。そもそもかなりの昔なのでハッキリとした話ではないのですが、それでいいなら構いませんよ」


 私は話を伺いたいと伝え、その話を聞いてもらった。


「実家での話です。ここと違ってかなりの田舎でして、同年代の子供は数えられるくらいしかいませんでした。ただし、その子たちとはろくに遊んでいないので正確な人数は分からないんですがね」


 それで、ああ、あの子の話でしたね。実家で小規模な学校に通っていたんですが夏休みなどはやはり暇でして、一応ウチにはゲーム機があったのですが、なにぶん当時は学の無い低学年です。昔のゲームの説明不足も相まってろくに遊べるゲームもなかったんです。一応対戦格闘ならボタンを適当に押しても戦えたんですが、相手がいないものでつまらなかったんですよ。


 退屈を持て余して家の近くの山に登ったんです。一応危ないから登るなとは言われていたんですが、かといって家に居ても退屈なのでお説教を覚悟して山に入ったんです。


 その山をいくらか登ったところで子供に会ったんです。歳は私より上だなとなんとなく感じたのですが、その子はフレンドリーに『あそぼ』と言ったんです。何故かその声に懐かしいものを感じたので一緒に山遊びをしたんです。


 当時はまだ山が放棄されていなかったので、休憩所や道のようなものが多少は残っていたんです。そこを使いながらその子と遊びました。何故か彼は名前を決して教えてくれなかったんですよ。だから「きみ」とか呼んでましたね。今なら先輩とでも呼ぶのが適切だったのでしょうか。とにかく当時はそんなことを考えるほど頭が回っていませんでしたからね。


 それから数日、休憩所で遊ぶときに彼はカブトムシやクワガタを捕ってきてくれました。当時にしても大きいもので珍しかったですしテンションも上がりました。そこで二人で楽しく遊びました。カブトムシ対クワガタなんて対決をさせたりもしましたね。結構盛り上がりましたよ。


 それから少し二郎さんの表情が曇った。


 ただね、梅雨の時期に入ったので山に行けなくなったんです。それで結局家で退屈しのぎに本を読んだりしていました。やはり外で遊びたかったんですが、無理なものは無理ですから。


 そうしてようやく梅雨も明けて遊びに出ようとしたところで母親に声をかけられたんです。


『あんた最近よく泥にまみれてるけどどこに行ってんの?』


 これはまずいと思いました。正直に答えると怒られると思いましたね。


『友達と遊んでる』


 そう言って大急ぎで家を出ました。そしてまだ土の湿った山に来たのですが、そこは墓地になっていました。ワケがわからないままそこをさまよったのですが、小規模な墓地があるのみで遊ぶような余地は一切ありませんでした。だから私も狐につままれたような感じで家に帰ったんです。


 当時はまだバカなガキでしたから、墓に書かれている文字なんて読めなかったんですよ。結局、実家を離れるまでずっとその墓には近寄りませんでした。だから真相は闇の中……だったんですがね……


 それから高校でもう下宿に入って一人暮らしになりました。当時は近くに通える高校なんてありませんでした。そうしてようやく夏休みになったので実家に帰りました。なんとなくですが、あの墓地が気になったのでそこに行ってみたんです。


 そこには相変わらずの墓地が残っていました。いくつかの墓は手入れをされなくなったのか、草がぼうぼうに生えていましたが、大まかなところは変わりませんでした。何故か一つの墓に引き寄せられるように私は歩みを進めました。何故か『行かなきゃ』と思ったんです。


 そうしてたどり着いた墓はまだ新しい方で、一人しか入っていないようです。その俗名を読むと『一郎』と掘られていました。家名を見ると私の名字と同じものだったんです。その意味を深く考えたくはなかったので私は足早にそこを去りました。


 きっと何かあったのだろうと思います。でもなんとなく触れない方がいいのだろうと思い、黙っていました。その夏休みが終わるときに、墓前に一本のコーラを置いてまた高校に戻りました。別に年齢が分かったわけではないのですが、なんとなく察してお酒はやめておきました。当時はお備えのお酒くらい買える世の中でしたが、きっとあの墓に眠っているのは酒が飲めない年齢なのだろうと思ったからです。


「そのくらいですね、怪現象と呼ぶようなものでもないのかもしれません。満足していただけましたか?」


 私はそれにお礼を言って別れた。彼の実家は今でも人口は減っても残っているらしい。あえて人の秘密を暴き立てる趣味はないのでそれがどこかは伏せておく。

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