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日本怪奇譚集  作者: にとろ


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四散した影

 明里さんは最近恋人と揉めた末に別れたそうだ。その経緯が納得いかなかったので私に聞いて欲しいそうだ。


「あの人が言うには(名前を出していたがプライバシーのために以下伏せておく)私がこの前電車に乗っていたので声をかけようとしたら、私の隣に男の人が座っていたそうなんです。でもその電車は余裕で座れる程度には赤字路線なんです。だから意図して私の隣に座ろうとでもしなければそんなことにはならないんですよ」


 田舎特有の余裕で座れる電車での話だったそうだ。曰く、明里さんを見かけたときに顔色の悪い青年が隣に座って彼女の腕に自分の腕を絡めていたらしい。そんなことをされれば間違いなく気付くはずなのであり得ないと主張したらしい。


「一応その場はそれですんだんですよ、他人のそら似ということで強引に話を打ち切りました。私の記憶に無いんですからそれを怪しまれても困るんですよ」


 彼女には本当にそんな相手はいなかったそうだ。そもそもそんな相手を作るわけが無いほど当時の恋人とは良い関係で、そのままであれば結婚も視野に入れていたらしい。


「なんとか納得して貰ったんですがね、問題はその後です。実はその路線なんですが快速の通過駅なんですよ。つまり電車がそれなりの速度で通過するわけで……つまりその後少ししてその駅で人身事故があったんです。私はその場に居合わせてしまいまして……」


 そこからは少し言葉を濁していたが、要するに死体をモロに見てしまったらしい。それなりに衝撃を受けたのだが、何より疑問に思ったことがあるという。


「なんでですかね、その男の首がもげて私のところへ飛んできたんですよ。その首はもう既に誰がどう見ても死んでいるはずなのに私の顔に視線を向けてきたんです。理論的にはあり得ませんよね? 気のせいなのかもしれませんが、確かに目があったんです。それはともかく、詰めたい話かもしれませんがね、私は少し安心しました」


 その男の名前と顔がマスコミに報道されたそうだが、当時の恋人に『間違いなくこの男だ』と言われたので、これ以上変なことが起きることはないと、冷たいようだがホッとしたそうだ。


「それで終わったはずなんですがね、彼があの男を私のまわりで見るようになったんです。他の誰にも見えないんですよ? なのに彼にだけは見えるそうです。私にさえ見えないというのにですよ?」


 それはしばらくの間続いたらしい。そうしてしばらくの間は恋人も我慢していたそうだが、やはり限界と言うものがあるようだ。


「なんでも、夜にそういったことを目的に夜の町で待ち合わせたんですがね、あの人は私の近くに来たら悲鳴を上げて逃げ出したんですよ、酷いですよね?」


 その事があってから、耐えきれなくなった恋人の方から別れを切り出してきたそうだ。その夜に見たのは、彼女のまわりをフワフワ飛ぶ生首だったそうだ。彼女と付き合う限り見てしまうと思い、嫌いではないのだが別れて欲しいと言い出したそうだ。


「何が悪かったのかは分かりません。結局その幽霊を私は見たことがないですしね。ただそれから彼は大学を辞めて実家に帰ったそうです。私から離れたいからってそこまでするかとは思いましたよ」


 以後、電話も通じず没交渉になってしまったそうだ。その幽霊を見たのが恋人だけであり、彼女はそれを聞いただけなので怪談として成立するか少し悩んだのだが、彼女が話を終えて喫茶店を出たとき、私は窓から眺めていたのだが、彼女の影のまわりにいくつかの影がぎこちない動きをしており、その先の方に人間の頭のような影があった。おそらくハッキリと見るのは別れた相手だけなのだろうが、影だけだがどうやらその男はバラバラになってもつきまとっているらしい。それを見たので私はこの話を書いておくことに決めた。

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