仏壇の警告
美奈さんの祖父は彼女が小学生の頃に鬼籍に入っている。当時はそれがどういうことか分かっていなかった。ただそれをよく理解したのは高校に上がってからあるできごとがあってからだと言う。
「自慢をしたいわけではないんですよ」
そう前置きをしてから彼女は語りだした。
小学生で、まだ低学年の頃におじいちゃんはいなくなりました。怖いおじいちゃんだと当時は思っていましたから、いなくなったところで大して気にしていなかったんですよ。そのまま中学に入って勉強漬けになってからは家にある仏壇をまったく気にしたことはありませんでした。
そうして受験勉強の甲斐もあって志望校に無事合格したんですよ。進学校でなかなかついて行くのが大変だったんですよ。それでも頑張ってなんとか中くらいの成績を確保していたんです。その頃、クラスでも人気者の男子がいました。私はあまり気にしたことはなかったのですけど、何故か突然告白されたんですよ。
当時は意味が分かりませんでしたが、告白されたとなると無下にするわけにもいかず、回答を待ってもらうようにしたんですね。そのまま夢見心地で下校して、家に帰り着いたんです。
当時は授業についていくために睡眠時間を削っていて、頭がぼんやりしたまま家に帰ると意識がハッキリしていなかったんですが、何故か『行かなきゃ』という考えが湧いてきて気がついたら仏壇の前にいたんですよ。今でもあのことに説明はつきませんがおじいちゃんが呼んだのかもしれません。ただ仏壇の前に正座してぼんやりと眺めていると、パタンと位牌が倒れたんですよ。それからカタカタと遺影が揺れ出したんです。特に何か声が聞こえたなんて事は無いんです。ただそれだけの話なんですがね、何故かそれを見て直感しました。
そうして翌日、彼と付き合うことは出来ないと言いました。理由を聞かれたので困りましたよ、まさか仏壇のお告げなんて言えないじゃないですか、そんなことを言ったら宗教家扱いされちゃいますしね。なので『今は勉強に必死だから』と誤魔化したんです。彼とはそれきり高校に通っている間は向こうも私も関わりませんでした。
それから帰宅して線香を供えたんです。なんだかそうしないといけないような気がしたんです。高校はそのまま無事卒業して無難な大学に入ることが出来たんです。そこまでなら怪談とも呼べないと思うんですがね、問題は少ししてからの集まれる人だけで同窓会のようなものを開いたときです。
まだ関東に残っていた同級生で集まって居酒屋で飲みながら口さがない会話をしたんですけど、その時に私に告白をしてきた彼の話になったんです。そうしたら出るわ出るわ、みんなが彼の愚痴を話し出したんですよ。どうやら私は知りませんでしたが、随分女遊びが酷かったようですね。良い話題は聞きませんでしたが、彼が大学に入ってすぐ、女性問題でトラブルを起こして東京にいられなくなって地方に行ったと聞きました。
ただの偶然なのだとは思っています。ただそれにしてもなんだか偶然にしてはできすぎな気もするんですよね。私はおじいちゃんの思い出らしい思い出は無いのですが、きっと悪い人ではなかったのだと思いますよ。どうして私が小学生の頃に死んじゃったのに高校の事情を知っているのかは分かりませんが、助けられちゃいましたよ。感じられない程度の地震が起きたとか無理矢理説明をつけることはできるのかもしれませんが、おじいちゃんが助けてくれたって思う方が良いような気がするので今でもそう信じています。
そう言って美奈さんは笑った。その同級生の消息は不明だが、彼女は順調そのものの生き方をしていると言う。今は一人暮らしをしているそうだが、実家に顔を出したときは必ず一本のカップ酒を仏壇に供えて線香を供えているそうだ。