バキバキスマホです
隆太さんのスマホはバキバキにガラスが割れている。その理由がどうにも説明がつかないらしいと言っていた。
「直せばいいって思ってるでしょ? これでもう四回目なんですよね」
彼のスマホはもう何度も修理をしているらしい。いい加減保証を使うのにもうんざりしているそうだ。保証があるといっても最低限のお金はかかるのでキリのないことはやめたそうだ。
「俺だって綺麗なスマホが使いたいですよ。でも毎回こうなっちゃうんですよね」
そうして何故割れているのかを話してくれた。
始めに割れたのはアレを見たときですね。マンションの前を通ったときでしたよ。自分に向けて誰かが屋上から飛び降りたんです。私が生きているわけで、怪我もしてないでしょう? つまり上を見上げたときに飛び降りてきたのは確かなんですが、それは実体が無かったんですよ。
地面を見ても何もなかったですよ。きっとアレが幽霊なんでしょうね。どうしてあの時マンションの屋上を見上げたのかは分かりません、きっとあの幽霊が呼んだのだと思っています。
音はまったくしなかったですし、地面に何か痕跡が残っているわけでもありません。ただ単に不気味だったと言うだけの話なんですが、それだけで済めば良かったんですよね。
帰宅してスマホで何かニュースになってないかチェックしようとしたんです。そうしたら画面がバキバキに割れていました。幸いと言うべきかガラスは割れましたが、操作はできたんですよ。なのでそのまま操作したんですがそういったニュースは皆無でしたね。となるとアレは気のせいだったと言うことになります。
それからいくらか、あの飛び降りてきた女の情報を調べたんですが、あのあたりで自殺なんて一件も起きていないんですよ。つまりあれはなんの怨霊ではないんです。ただ落ちてきたけれど、それが誰なのかはさっぱり分かりません。
しかし彼は災難だなと思いながらもスマホの修理ショップに通って修理をしてもらった。幸い割れたのはディスプレイの中でも表面のガラスだけだったので全交換とはならなかった。おかげで一万円も修理にかかるようなことはなかったものの、おかげで非純正のガラスで修理したので公式ショップでの修理は出来なくなった。その方が安かったから公式の保証はもう諦めたそうだ。
「それでもちろんそのマンションの前を通るのはやめたんです。不気味ですからね。遠まわりになるのは不便なんですが、二度とあんなものを見たくはないですから多少遠まわりでもそこは避けるようにしました」
「しかし」と言って隆太さんは続けた。
何故か他の場所を通っていても高い建物の前を通ると定期的に女が飛び降りてくるんですよ。迷惑な話でしょう? しかもそのたびに何故かスマホのガラスだけが割れるんですよ。それで一度スマホがどうして壊れたのか調べてみたんですね。
なんとか説明を付けようと考えて、例えばバッテリーが膨らんでいて圧がかかるようになっていたとかも考えたんですが、少しも本体が浮いている様子は無いんです。そこは原因じゃなさそうですね。
それから色々調べたんですが、何が原因なのかは分からなかったんですよ。ただ、色々アプリを開いたときに録画アプリに動画が残っているのに気がついたんです。撮影なんてしていないのでおかしいなと思いながら開いてみたんです。
誓って私は飛び降りの撮影などしていないんですよ、それなのに全てに女が建物の屋上から飛び降りる様子が映っていたんです。不思議なのはスマホで撮影しているにしても、動画の全てで女は撮影しているスマホに向けて飛び降りてきているんです。動画の最後は全て女がスマホに当たってブラックアウトしていました。
結局、女が当たってスマホの画面が割れているとしか思えないんですよね。ただどうしても女が俺に向けて飛び降りてくる理由が分からないんですよ。誰かを手酷く振ったり、既婚者に手を出した事なんてないですよ。だから本当に目を付けられてしまったとしか説明がつかないんですよ。
そのたびにスマホを修理していて気付いたんですがね、その女はスマホが割れている間は落ちてこないんです。仕方ないので新機種を買っても保証なんて入らず割られてから修理するのもやめましたね。迷惑な話なんですが、スマホを割れっぱなしにしておけば落ちてくることは無いんです。だからもう諦めてしまいました。
一応はそれでスマホが割れていると言うこと以外の問題は解決しました。困ることと言えば新しいスマホを買ってもすぐに割れてしまうことくらいですね。多分綺麗なスマホはこれからも持てる気はしません、諦めるしか無いんでしょうね。
そう言ってバキバキに割れたスマホを魅せてくれた。『見ない方がいいです』と言ってその飛び降り映像は見せていただけなかったが、世の中には理不尽なことがあるんですねと言っていた。結局真相は分からないままだが、彼は最後に『最近になってようやく海外の安いスマホを個人輸入する方法を覚えましたよ』と言っていたので、除霊などは諦め、安いスマホを次々犠牲にしていくことにしたらしい。