表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/294

デジタルこっくりさん

 ある日、同級生たちと桂木さんはこっくりさんをしたことがあるらしい。もっとも、今となってはこっくりさんも古典になっていたので一々十円玉を用意して紙に五十音を書くような面倒なことはせず、少し変わった方法を採ったそうだ。その日の話を伺った。


「どうも、話したらお金くれるって本当ですよね? じゃあ話しますね」


 そう言って彼女は急いで話を始めた。私は急いでスマホを取り出して記録することになった。謝礼はもちろん出すつもりなのだが、どうにもお金目当てに急造した話ではないかと不安になった。


「話は知ってますよね、始めに送ったとおりこっくりさんをしたんですよ。今時十円玉を用意して……って面倒じゃないっすか? いや、十円はいいんですよ、五十音とはいいいえを書いた紙を用意するのが面倒じゃないですか、なので一人が持っていたスマホ用のペンを使ってタブレットのキーボードでやったんですよ」


 なんとも現代っ子な話だ。こっくりさんもデジタルの世界に呼ばれて困惑しないのだろうか? 案外適応している可能性もあるが、これが怪談なのだから一応成功したのだろう。



「結構面倒でしたよ、五十音のキーボードを出して三人でペンを持つんですもん。絶対にまともに動かないような持ち方でしたよ。よく考えたらペンに持ち手か何かを付けてもう少し伸ばしておけば楽だったんでしょうね、アレは失敗だったかな?」


 それからようやくこっくりさんを始めた話をしてくれた。


 こっくりさんですよね、実は正確な呼び方なんて知らないんですよね。母さんの世代だってまともにやったことないらしいんですよ。お作法なんて調べるのも面倒だったので、三人でペンを持って質問を始めたんですよ。え? 始めにこっくりさんを呼び出すんですか? あとで知りましたね、その時は質問に答えてくれるよく分からないけど便利な神様って思ってました。


 早速恋愛の話をしようかと思ったんですが、何を聞いても動かないんですよね。誰かが動かないようにがっちり持ってるんだと思いましたよ。こっくりさんなんてしようとしているのになんでそんな冷めることをするのかは分かんないですけど、それで一気に興ざめしたんですよ。


 結局どうでもいいような質問をすることになりました。この冬流行るファッションとかネットで調べれば済むようなことでも訊いてみましたよ、こっちはきちんと答えてくれましたね。もっとも、訊くまでもなく知っていたのであまり関係無いんですがね。


 そう言ってクスクスと彼女は笑った。こっくりさんもどうやら今の時代に慣れていないようだ。


 それで試しに誰が言ったんだったかな? 「私たちはあと何年生きられるの?」って訊いたんですよ。今でも誰が聞いたのか思い出せないんですよね。声もしっかり聞こえたはずだし、こっくりさんに参加したのは私含めて三人ですよ? どう考えても私以外の二人だと思ったんですが、二人ともポカンとしていました。アレは誰が訊いたんですかね。


 とにかく、一人ずつこっくりさんは結構な長さを答えてくれたんですよ。一人の回答がとんでもなかったので私の寿命は覚えてないんですけどね。あれはAがあと何年生きられるか聞いたときですよ。私含めて二人は当面心配要らない数字が出たので覚えてもいないんですが、あの子だけは違ったんです。『三日』とペンが動いて文字をつついていったんです。みんな誰かの悪趣味なイタズラだと思いましたよ。そんな極端な数字が出るはずないってね。もちろんその答えを出されたAは健康でしたよ。学校の健康診断で何か言われたわけでもなかったですし。Aは私たち二人を見て『やめてよ』と言っていましたね。


「ところで、報酬は頂けるんですよね?」


「ええ、寸志ですがお支払いしますよ」


 私がそう答えると、少し躊躇ってから彼女は話を続けた。


 お金を貰えるそうなので言いますけどね、実はこれって心霊現象じゃなかったと思うんですよ。その予言は当たったんですけどね。実際Aはその三日後死んじゃいました、ただし病気とか呪いじゃなかったんですよ。一緒にこっくりさんをしていたBに怪談から突き落とされたんです。彼氏に二股をかけられていて一緒に歩いているのを見たBがキレちゃったようですね。彼氏の方は生きていたそうですがAは運が悪かったんでしょうね、落ちたときに首の骨が折れたそうで、それで死んじゃいました。


 だからこれは怪談じゃないと思うんですよ。ただ、少し分からないのはこっくりさんがきちんと答えたとおりになったことなんですよね。こっくりさんさえしなければただの痴情のもつれで済んじゃう話じゃないですか? そこにこっくりさんなんて混ざったせいで怪談みたいになったんですよ。結局、こっくりさんが本物だったかは分かりませんよ。もしかしたらこっくりさんが空気を読んで恋愛関係の質問をしたときに動かなかったとか思っちゃいますよ。ただ、それは誰も気にしませんがね。


 そう言うと、私が謝礼を差し出すなり、彼女は即座にそれを受け取って席を立った。一応怪談とは少し違うかもしれない。しかしこっくりさんがどうして『三日』という正確な答えを出したのかという謎は聞きそびれてしまった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ