たくさん付属
御厨さんは霊感が多少あるそうだ。ただし、見えるのは強い力を持った守護霊や背後霊など人間についているものが見えるくらいで浮遊霊などは見えないと言っていた。基本的に害の無い霊ばかり見ていたので気にしていなかったのだが先日恐ろしい目に遭ったのでそれ以来外出が怖くなったと言う。
「何か恐ろしい例を見たのでしょうか?」
「ええ、アレはゾッとしましたよ。たまに見る霊だったのですけど、数が数だったので……」
彼女はその日、働いているコンビニでレジ打ちをしていた。コンビニには大量の人が出入りする、必然そういったものを連れている人もそれなりにいると言う。
「一々気にしていなかったんですがね、せいぜいびっくりするにしても落ち武者のような霊がついているくらいだったので慣れきっていたんです」
「落ち武者の時点で穏やかではないと思いますが……」
「いえいえ、落ち武者なんて現代にはいないじゃないですか、それなりの年月を現世で過ごした霊なので自分が死んでいることは理解していますし、機械や車みたいな当時存在していなかったものは不思議そうに見ているだけなんですよ」
どうやら昔からの霊は近代に上手く適応出来ていないことが多いらしい。確かに見た目こそおどろおどろしいが、ただそれだけでそんなものと比べたら性格の悪い人の方が生きている分、よほど怖いと笑われた。
「では一体何を見たんですか? 落ち武者のインパクに比べたら大したものは無いような気がするのですが?」
「そうですね、実際私が見たのも正確に言えば幽霊が怖いと言うより……まあ幽霊の方も不気味でしたが……人間の方がよほど怖かったんですよ」
そう言ってその『何か』について話してもらった。
私も慣れているので何が付いていても気にせず決まりきった接客をしていたのですが、あの女の人が入ってきたときには流石にバックに逃げようかと思いましたよ。当時はレジ打ちが出来るのが私一人で他はバックヤードに一人しかいなかったので逃げられませんでした。
一体何が憑いていたんですか?
確証はないんですけど……おそらくアレは水子だと思います。人の形をろくに維持出来ていないような小さな人間が憑いていたんです。それまでにも二三人の水子をつけた人はたまに見たんですが、その方はもういい年なのにやたら多くの水子をつけていたんです。戦中戦後に亡くした子供をつけているのかとも思ったのですけど、せいぜい五十台にしか見えないのでそんな時代とは関係無いと思うんですよ。
それからその方は一通りの買い物済ませてレジに来ました、何を買っていたか? 流石に覚えていませんね。霊のインパクトが強すぎで早く会計を済ませて出て行ってもらおうと大急ぎでレジを通しました。
そしてその方は駐車場に出て行ったのですが、そこで柄の悪そうな男性が車に乗せて帰っていきました。私は別に勘がいいとかそんなことは無いですし、むしろ鈍感な方なんですけどそれを見たときにはハッキリ分かりましたね。あの男が水子の原因でしょう。まあ……派手そうな方でしたから今までも遊んできたのだと思います。となれば……ね?
何故その男の人ではなく、多分ですがその母親でしょうね、そちらに憑いていたのかは分かりません。ただ車のナンバープレートが見えたのですが、地元のナンバーだったんですよね。また来るかもしれないと考えるととてもじゃないですがバイトなんて出来ないので無理を言ってやめさせてもらいました。理由は聞かれましたが流石に正直には言えないので適当にはぐらかしましたよ。正社員でなくてよかったと本当に思いましたね。
その後のことは知りません、ただ、あの方は長生き出来ないような気はしますね。きっと車を運転していなかったのはそういう体調だったのだと思いますよ。もちろん原因はアレでしょうね。
そうして恐怖は終わったのだが、あの親子がまだ地元にいるのかもしれないと思うとロクに家から出たくないし、当分男性とお付き合いしたいとは思えなくなったそうだ。