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高時給の食品工場

 佐藤さんは昔、奇妙なアルバイトをして酷い目にあったことがあるそうだ。昔の話だが広めて欲しいと言うことなのでお話を伺った。


「よろしくお願いします。大学に入ってすぐの話だったんですが、少しお金が欲しかったんですよ、都会に出てきてお金を使う場所の多さに驚いたんです。お金がいくらあってもこの町じゃ足りないんだなと思いアルバイトをすることにしたんです」


 そうして彼女はバイトの情報誌を手にし、それをめくりながら割のいいバイトを探したそうだ。


 そこでとあるバイトが目についたんですよ。時給ではなく一日いくらというバイトだったんです。それが目立ったのは勤務内容です。食材の運搬というバイト内容で、朝に決まった場所に食材を運ぶだけで一日五千円となっていたんです。しかも工場の稼働前に終わるというので少し早起きすれば数時間で五千円がもらえる割のいいバイトだったんです。驚くことに最短で一時間程度で終わると書いてあったんです。よほど慣れたらと言う話だとは思ったんですが、最高で時給五千円となると凄く良いなと思って即応募したんです。


 それからとある場所にある食品工場の事務所で面接が行われた。その面接は人間性を見ている様子は無く、担当者もさっさと終わらせたいようで、十キロくらいの食品なんだけど運べるかな? と訊かれただけだったそうだ。食品工場だというのに一日に使用するのがたった十キロというのは疑問に思ったけれど、あまりにも楽な内容なので喜んで引き受けた。


 翌日から出てくれと言うことなので目覚ましをセットしてその日はさっさと寝た。早朝の勤務なので大学の講義と被ることは無く、少し早く寝るだけで時間が確保出来るので、何故こんな割のいいバイトが残っていたのかは疑問だったそうだ。


 翌日、バイトに出勤するとそこには袋が五六個置かれており、これを各所に運んでくれと言われた。


 一つ一つに入っていたのは粉のようだったので、小麦粉か何かかなと思ったんです。それにしても少ないなとは思いました。しかし運びやすいので疑問を挟むよりさっさと終わらせようと思い、まとめて大袋に入れていわれ束所に運んでいきました。


 運ぶ前に言われたのは、『置いてある空の袋は回収してくれ』とのことだったので、地図を見ながらそれぞれの場所に行ったんです。しかし、てっきり食材を運ぶのだろうと思ったのですが、何故か運ぶ先が事務所のような食品の生産とは何の関係も無い場所だったんです。そこの隅に置かれている袋をどかして新しい袋を置きました。その時に古い方の袋を持ったのですが重さがほとんど変わらなかったんですよね。そこでこれは食品では無いのではないかと思ったのですが、紙袋にしっかりテープで封がされているので中を覗くことも出来ませんからそれを交換して回りました。簡単と言えば簡単でしたね。


 ひとしきり交換が終わって古い袋を所定の場所に戻して運搬が終わったことを告げると五千円をもらえたんです。よく考えてみると月給制では無く日払いだったのは何故だろうと思いましたが、もらえる金額が変わらないなら日払いで現金がもらえる方がいいのでありがたくもらいました。


 その日の就寝前には何故か妙に肩が重くなっていましたね。確かに肉体労働でしたがせいぜい十キロしか運んでいませんからね、そこまで体力が無いとは思っていなかったのに何故か肩の動きが悪かったんです。


 そうして一週間ほど毎日そのバイトを続けました。肩は重かったものの、短時間で高時給のバイトを辞めたくはなかったので少し無理をして出勤しました。休日は無かったのですが大した勤務時間でもなかったのでおかしいとは思いませんでした。でも結局続いたのは二週間くらいでしたね。


 私は何があってその割のいいバイトを辞めてしまったのか訊ねてみた。


「何かおかしいとは思っていたんですがね、体力を使うバイトだから疲れがたまっているのだろうと思ったんです。でもいよいよその日、荷物を運んでいるときに転んでしまったんです。それで交換して回収した袋を落としてしまったんです」


 そしてその袋に小さな切れ目が出来、中身が見えてしまったそうだ。


「中に入っていたのは茶色い粉のようなものでした。好奇心に抗えず、食品なので問題無いだろうと少しだけつまんで舐めてみたんです。それで分かったのは塩だということでした」


 塩が茶色い? と疑問に思い、何故事務所にあったのかを考えました。そして一つの推論が浮かんだのでその日の帰りに神社に寄ったんです。稲荷神社として有名なところでしたね。


 そこでお祓いを頼もうとしたら、向こうからやって来て『えらいもんをつけてるねえ』と言われたんです。そしてもったいないですがバイト代の大半を支払ってお祓いを受けました。それで体の不信はすっかり取れました。それでスッパリバイトからは逃げましたよ。向こうも慣れているのでしょう、私に連絡したりもされませんでした。


 そして結果から考えるに、アレは袋に入った盛塩だったんでしょうね。そんな大量に塩を使うなんてあり得るのか考えましたが、神社で解決したことと体調不良などからきっと食品として使うものではなかったのだと気付きました。今にして思うとほとんど生贄みたいなものだったんでしょう。それなら時給が良くて当然かと思いました。


 ただ一つ不思議なのは、帰ってそのバイト情報誌を何度見返してもそのバイト内容が載っていなかったんです。あんなに目立ったものだったはずなんですが、どうしても見つけることは出来ませんでした。気にはなりましたが、すっかり縁が切れたことだと割り切って忘れましたよ。


 そう言って彼女は笑った。なお、その工場は未だに稼働しているそうだ。未だに盛塩を使っているのかは知りたくもないとのことだ。

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