表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/295

大陸製イヤホン

 加藤さんは最近散財をしたのだが、後悔する買い物になってしまったという。謝礼を払うので話してくれないか訊いたところ、無駄遣いが少しでも取り戻せるのならと喜んで話してくれた。


 加藤さんは高校生だ、スマホに繋ぐイヤホンが欲しかったが、どうしても高級帯のワイヤレスイヤホンは買えない。そのために通販サイトを巡って少しでも安いものを探したという。


「信じられないくらい安いのがあったんですよ、どうしてもお金が無かったもので色々と法律的に怪しい気はしたんですがね、電波法でワイヤレスイヤホンで逮捕されたなんて話は聞かなかったのでその辺に目を瞑って購入したんです」


 支払い方法は振り込みのみだったそうだ。


 明らかに振込手数料の割に合わない価格でしたが、安いものはこのくらいなのだろうと自分を納得させたんです。


 とにかく安いものを追い求めた結果、ワンコイン程度の値段で買えるイヤホンにたどり着いたらしい。世の中には安いものがあるものだと不思議に思いつつ、それだけ需要があるから安くなるのだろうと思って買った。


 それから一週間くらいでイヤホンは届きました、白いビニール袋に入っていましたね。中には英語の取説とイヤホンがケースに入ってそのまま入れられていましたね。箱すら無いのはすこし驚きましたけど、値段が値段なので箱代すら節約しているんだろうなと自分を納得させました。


 彼女は喜んでイヤホンを充電して拙い英語力で説明書を読んでなんとかスマホとのペアリングに成功したそうだ。


 それでケーブルに縛られることもないなと思って早速次の日学校に持っていきました。私も所謂ぼっちなのでお昼休みはこれで音楽でも聴きながら過ごすつもりだったんです。


 まあそれで無事お昼休みまで授業を受けたので休み時間に入ったところで菓子パンを取りだしてイヤホンをつけて音楽を聴きながらモソモソ食べたんですよ。その時なんですが、何か妙なノイズが混じったんですよ。ただその時は食事もしていたので頭を動かしながら激安イヤホンで聞いているので仕方ないかなと思っていました。


 問題はその後ですね、パンは食べ終わってノイズの元は無くなったはずなんですよ、なのに時々イヤホンからノイズが入ってきたんです。安いから仕方ないとは思いましたよ、同級生は白く眩しいイヤホンをつけていましたが、そう言った人たちが文句一つつけている様子は無いので、きっと高級ならノイズが乗らないのだろうと思っていました


 結局、放課後になって一人で帰宅をしていたんです。すこしだけお高いイヤホンをつけている人に嫉妬はしていましたね。それでも道を歩きながらならノイズなんて気にならないと思ったんです。


 そうして帰宅していたのだが、歩いている途中もノイズは入り続けたという。我慢していたのだが、途中でおばあさんに呼び止められた。


 そのおばあさんはいかにもお年寄りって感じで耳も遠そうだったのですが、驚くほどハッキリした声で『そこの子、ちょっときんさい』と呼び止められたんです。普通無視するのかも知れませんが、その声がしたときにやたらノイズが乗ったのでイヤホンを外したんですよ。声をかけられてイヤホンを外してしまった手前、何事も無かったように通り過ぎるのも気が咎めたのでおばあさんの方に行ったんです。


「なんでしょうか? 道が分からないんですか?」


「馬鹿言うんじゃないよ! あたしゃこれでも頭はしっかりしてるさね。それよりあんた、その耳に付けていたものがあるやろ、見してみ」


 なんとなく迫力がありましたし、渡して壊されてもワンコインですからね、諦め半分に手渡しました。するとそのおばあさんはじっとそのイヤホンのケースを見て独り言を言ったんです。


「そうかい、あんた大陸の出かね、懐かしいね……この子は若い、わたしにしとき」


 そう言ってから頷いてイヤホンを返してもらいました。それから帰りに音楽を聴いたんですが、ノイズがまったく入らなくなっていました。あのおばあさんが修理出来るとは思えませんし、修理らしき事もしていませんでした。とにかく直ったので気分良く帰ったんです。


 そうして出来の悪いイヤホンは普通のイヤホンになり、通学中にそれをつけて、学校の手前で外して登校したらしい。


「それから……三日後でしたね、おばあさんに呼び止められた家の玄関に『忌中』と書かれた白黒の紙が貼られていました。何があったかはあまり考えたくありません。とにかく偶然だとは思います」


 それからもそのイヤホンはノイズを出すことがなかったそうだ。だから金銭面で損をしたわけではない。ただし、そのイヤホンは新しいものを買ったらお寺か神社にでも持っていこうと思っているそうだ。私はその近くの家電店で格安ワイヤレスイヤホンが買える程度の謝礼を出して彼女と別れた。結局、そのイヤホンに何か謂れがあったのかどうかは分からない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ