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日本怪奇譚集  作者: にとろ


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立ち入り禁止の山

 島田さんは昔、弟と一緒に不思議な体験をしたそうだ。問題は今でも続いている話らしく、個人情報は伏せると言うことで話を聞いた。


「実は、今でこそ県庁所在地に住んでいますが、昔は母方の実家で暮らしていたんですよ」


 その実家は結構な田舎であり、バスがたまに来る他は大した交通機関はなかった。必然、遊ぶ範囲はその近所となる。駅から電車乗ってなん駅もなどという都市部のみでしか出来ない贅沢は出来ないような地区だったし、そもそも電車が走っていない程度には田舎だった。


 そこで島田さんとその弟は自然の中でのびのびと遊んでいたそうだ。そういえば聞こえはいいが、娯楽になりそうなものがほとんどないというだけだ。


「それで、実家の近くに入ってはいけない山というのがあったんです。よく霊的に何かあるから、などという理由をつけることはあるが、そこはただ単に人が入らないので道らしきものが無いので藪をかき分けてはいることになり、山なので害虫などもいるということで入れないと思っていたんです」


 山というのは人の手が入らないとあっという間に獣道ですら消えてしまう。そういった場所は必然的にイノシシや猿、熊……まではおそらくいなかっただろうが、蛇くらいなら出るかもしれないので入るなと言うことだと思っていた。


 田舎のためロクに友人はおらず、遊ぶ場所も少なかった。当時はファミコンすら無い時代で、家の中で遊ぼうなどというと将棋くらいしか遊べる道具がなかった。花札やトランプは当時の彼にはルールを覚えるのが大変で、小学生には複雑なルールを覚えるよりも外で遊んだ方が楽しかった。


「兄ちゃん、山を探検しよう」


 そう弟が言い出したのは必然だったのかもしれない。遊ぶ場所などロクに無いのでしっかり虫やヒルなどから身を守れる長袖長ズボンに軍手をつけて山に入ることになった。少しだけだがこのつまらない村でルールを破るということに背徳的な快感を覚えていたのは今でも覚えているそうだ。


「よし、懐中電灯も持ったな?」


「持ったよ!」


 こうして二人での探検は始まった。山には一応黄色と黒の立ち入り禁止ロープが張られており、一応は立ち入り禁止となっていた。しかしフェンスで囲まれているようなわけでもないので入ろうと思えばフリーパスだった。彼らは平気でロープをくぐり、山の中に入っていった。


「そこまではまだ良かったんです。しばらくの間草や枝などを払いながら進んでいきました。当時やっていた探検番組を思い出していましたね。もっとも、今にして思えば向こうはやらせな分こちらより安全だったのかも知れませんがね」


 一応虫除けスプレーもしているので多少の傷を負いながら道なき道を進んでいった。


「本当に何故迷うことなく進めたのかは不明なんですよ。道なんて無いはずなんですが、何かに導かれるように兄弟共に何の疑問も持たずに進んでいきました」


 そうして進んでいった先にあったのは鳥居とその奥にある神社だったそうだ。当時はなぜ道も無い場所にきちんと整備された神社があるのかを不思議に思うこともなく社に向かっていった。


 お賽銭でも入れようかとも思ったのですが、子供で欲しいものには事欠かないので一円たりとも持ってきていませんでした。しかし招かれるように社殿に向かうとそこには銅鏡が祀られていた。なんとなくそれを覗くと、多少歪んで自分の顔が映った。大したものはないなと思い、そこを離れようとしたときに、一緒に来ていた弟が銅鏡を覗き込んで固まっていた。


「おい! 帰るぞ!」と大声で言ったにもかかわらず、本人にはまったく聞こえていないようだった。仕方なく手を引くと、弟なのにどこからそんな力が出るのかというくらいまともに太刀打ち出来ない踏ん張り方をしていた。


 誰かを呼ぶわけにもいかないのでしばし待っていると『帰ろう』と弟が行った。ただの鏡を随分熱心に見ていたなと思ったのだが、暗くなると遭難しそうな状態になっていたので弟の手を引き急いで帰宅した。


 幸い帰路に迷うことはなく、折ったり払ったりしてきた植物の跡をたどって家まで帰った。その夜から弟は平気で夜更かしをするようになった。正確に言うと夜更かしではなく、夜行性の動物のように夜に起きて朝に寝る生活になっていた。


 祖母は何かを察していたのだろう。『両親と家を出て行ってくれ、弟は私が育てる』という意味のことを言われた。祖母には弟の世話は荷が重いのではないかと話し合ったが、優しいはずの祖母には似合わず今回は強情に言い張った。


 結局、家族は都市部へ引っ越すことになった。その時に『二度と来るんじゃないよ』と優しい声で祖母に言われた。嫌っている様子でも無く、思いやりを感じるような声音だったそうだ。


 その後、弟がどうなったのかは聞かない。両親ともに弟の話題は禁句となっている。おそらく祖母から何か聞いたのだろうが、それを決して語ろうとはしなかった。


 今では市町村合併で村の名前も消えてしまい、祖母も亡くなったが、弟がどうなったかは未だに不明だそうだ。


 あの神社が一体なんだったのか、それを知りたいと思ったが、弟のような目に遭うかもしれないと思うとあそこに戻りたい気持ちは萎えてしまうそうだ。

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