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心霊写真のようなもの

 芳野さんは心霊写真を取るのが好きで、未だに使い捨てカメラを手放せないという。彼女の談によると、幽霊はデジタルカメラに写りづらいとのことだ。『幽霊も生きていた頃に普及していなかったものには写らないんですかね』と言っていた。


「それで、この前一枚怖い写真が撮れまして……」


 そう言って一枚の写真を差し出してきた。そこには木が一本写っており、別に何の変哲も無い写真だった。つぶさに見てみたが、木に顔が浮き出しているようなことも無ければ、空に円盤が映っているわけでもない。私は匙を投げてどこがおかしいのか訊ねることにした。


「どこもおかしくはないような気がしますが、何がおかしいんですか?」


 私がそういうのを待っていたのだろう、面白そうに芳野さんはこの写真の正体を教えてくれた。


 実はこの写真自体はどこもおかしくないんですよ、ただ『写っていない』ものの方に問題がありまして、この写真を撮影したのは少し前なのですが、霊験あらたかなご神木を見に行こうと友達に持ちかけられてそこまで行ったんです。もちろん心霊写真を取るために行ったので時間は夜になっているでしょう?


 確かにフラッシュを光らせたのだろう、しっかり夜空には月が写っている。


「それで問題なんですがね、実はこの写真は首吊りの現場を撮影したものなんですよ」


 私は思わず声を上げそうになった。明らかにしたいなど写っていない。そんな写真を見せられてもさっぱり分からない。


 ええ、言いたいことは分かりますよ。まあ説明を聞いてください。私たちは目的の神社に真夜中に向かったんです。当然ながらそんなものに出会うとは思いもしませんでしたから、ただの肝試しのつもりでした。


「それで、奥の方にあるご神木の方へ向かって行ったんですよ。そうしたらギィ……ギィ……と音がしていまして」


 それから少し体を震わせて話を続けた。


 ご神木にたどり着いたらそこには太い釘を打ち付けて首を吊っている女の死体があったんですよ。音はそれが揺れるために出ていたようなんです。そこで……非常に不謹慎なのですが、何故かその女が『撮れ』と言っているように思えまして、写真を一枚撮影したんです。友人にも『何をやってるの!』と怒られましたよ。どうもあの声は私にしか聞こえていなかったようですね、死体が声を出すわけが無いので聞こえないのが普通だと後になって気付いたのですが……


 そして警察を……となったんですが、友人が急いで警察と救急を呼ぼうとしたんです。そこで強い風がいきなり吹きまして、私たちは思わず目を瞑ったんです。そして風が収まるとご神木には死体なんてぶら下がっていませんでした。二人で顔を見合わせて『何も見なかったことにしよう』と二人で恐る恐る帰ったんです。


 帰宅した翌日に写真を現像に出そうか悩んだんですよ。写っていたら下手をすれば現像の段階で通報されかねませんが、私も自宅に暗室をもっているほど凝ってはいませんからね。


 少し考えたのですが、あの『撮れ』という声がしたということはあの死体は写真を見せたかったんだろうと思い、覚悟を決めて現像に出したんです。結局何も写ってなくてただの木を撮影した写真になりましたよ。


 アレがなんだったのかは分かりませんがね、一緒に行った友人にその写真を見せると、『なんてもの見せるの!』と怒りだしてしまいました。きっと彼女には何かが見えていたのだと思います。ただ、結局私はご神木を撮っただけで友人を一人失いました。彼女はスッパリ心霊やオカルトとは足を洗うので出来る限り関わらないでくれと言っていました。


 それだけ言って芳野さんは悲しげに微笑んだ。結局、心霊が好きだとしてもそれが見えるかどうかはまた別の話ということなのだろう。最後に『この写真はお焚き上げしようと思っています』と言っていた。写真は処分するのだろうが、彼女が現像の時にもらったであろうフィルムに言及しなかったので、やはり懲りてはいないのではないかと私は思った。

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