廃墟巡り
上田さんは大学生だった頃、廃墟を巡るのを趣味としていたそうだ。大学にもなるといろいろな趣味を持つ人間がおり、同じく廃墟巡りを趣味とする住田さんと一緒に廃墟巡りをしていたそうだ。
「あの頃は怖いもの知らずでしたね。法律云々はさておき、仲間が見つかって少し気が大きくなっていたんでしょうね、二人していろいろなところへ繰り出していきましたよ」
当時を懐かしんで言う上田さんだが、今はすっかり廃墟巡りはやめてしまい、むしろ廃墟には近寄りたくもないと言う。
住田と二人で廃工場から廃村の民家などいろいろなところに行きましたね。まだあの頃は楽しかったんですよ。
「何かあったんですか?」
上田さんは「ええまあ」と言い、とある廃墟で出会ったものについて語ってくれた。
あそこは限界集落の家の一軒でした、具体的な場所はちょっと勘弁してください。とにかく、人がほとんどいなくなった集落でその家は大きなもので、話によると有力者が住んでいたそうです。
大きな家であり、今では誰も住んでおらず、かなり荒んでいるという、いかにも幽霊でも出そうな雰囲気に二人は取り憑かれ、二人が向かわない理由は無かった。
その家は洋館でして、死者が出たとは聞いていないんですよ。だからそんなに危険なこともないだろうと二人して車を出したんです。村の外れで目に付きにくいところに車を止めて二人で夜になるのを待ったんです。肝試し的な目的ではなく、やはり不法侵入になってしまうので人目につきたくなかったんですよ。だからこれから訪れる場所に期待して楽しみにしていたんです。
そうして夜になった。当然だが二人は強力なLEDライトを持ってその廃墟に向かう。
そこはいかにもな雰囲気でして、見るものをゾッとさせる威圧感がありました。これは入ってみなくてはと興奮して玄関ドアに行きました。最悪鍵の破壊も厭わないつもりだったのですが、予想外に鍵は開いておりノブを回すとすぐにドアが開いたんです。俺たちは『ラッキーだったな』と言い合い、『どうせもう来ないから鍵もかけてないんだろ』と判断して中に入ったんです。
その中は取り立てて幽霊を感じさせるようなものはなく、普通に人のいなくなった言えという感じが建物を包んでいた。期待外れかなと思いつつ二人で手分けしてスマホを使い各部屋を写真に撮っていった。それなりにお金持ちが住んでいた家なので、部屋数は多く、二人は一緒に回らず、面白いものが見つかったらスマホにかけてくると決めて部屋を総当たりしていった。
俺は片っ端から部屋を開けて言ったんですがね、これといって特筆するもののない平凡な家でしたよ。部屋に入ってライトを照らしても家具の一つも残っていないがらんとした部屋があるばかりでした。自分の担当分を回り終えそうになったところで住田から画像付きメッセージが届いたんです。
そこには『すごいものを見つけた』と書かれており、大急ぎでそちらへ向かいました。そこには半狂乱になって笑う住田がいましたね。俺は何かあったと確信して力に任せて住田を引っ張って家から出したんですよ。そして落ち着くのを待ってから車に乗せて急いで運転をしてそこから離れたんです。東京に入るまでずっと車の中には笑い声が響いていましたよ。
それから住田は大学を辞めたんです。何があったかは聞きませんでしたがね、アイツが最後に送ってきた画像が問題でして……そこには胎児らしきものが写っていて、それがカメラをじっと見ている画像でした。
これは俺の予想でしかないのですが……多分あの家から出て行った奴らは供養をしていなかったんでしょうね、奥の方に仏壇が写っていたので、たぶん面倒なものは全部あの家に置いて言ったんだと思います。
結局、住田さんがどうなったかは未だ分からないそうだ。ただし上田さんは『悪いとは思うんですがね、もうあいたいとは思いませんよ』と苦々しく言った。
それ以来、一度たりとも彼は廃墟に足を運んだことは無いそうだ。