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日本怪奇譚集  作者: にとろ


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座敷悪童

 川田さんには昔からの知り合いに安井という男がいたという。過去形なのはもうすっかり縁を切ってしまったかららしい。お金のことで揉めたそうだが、その原因がなんとも不気味だったと語る。


「いやね、高校時代に知り合ったんですが、お世辞にも褒められたヤツじゃなかったですよ。しょっちゅう金を借りるわ、高校生だというのにパチンコに入り浸るわ、そりゃもう酷いヤツでしたよ」


「なるほど、それで、その方と一体何があったんですか?」


 少し前の話になりますね。そういう出だしから話をしてくれた。


「俺だよ、安井、分かるだろ? ちょっとお前に用事があってさ、出てこれないかな? 近所のファミレスでいいや」


 また金の無心かと心底うんざりしましたよ。それでも行かないわけにはいかなかったんです。実は高校時代に恥ずかしながら一度万引きをしましてね、安井のヤツが「今さらそのくらい経歴に傷がつこうが知った事じゃない」と言って自分の身代わりになってもらったんですよ。そんなことをしておいてなんですが、卒業まで何度も金の無心がありましたね。親や教師に言えないのをいいことに結構な額を引っ張られましたよ。でもね、その時の用事は金の無心じゃなかったんです。


 気が重いながらも川田さんは普段着を着てファミレスに向かった。小金なら持っていたが、有り金を推測されるのも嫌だったので最低限のお金だけを財布に入れて呼び出されたところへ向かったんです。


 そうしたら安井が「こっちこっち」と呼ぶんですよ。見れば子供を連れて来ているじゃないですか。子供が何も食べていなかったのは奇妙でしたが、アイツのことだからドリンクバーの回し飲みでもしているのだろうと思いそちらの向かいに座りました。


 席に着くなり安井は俺に封筒を差し出したんです。決して薄くはありませんでした。中を見ると一万円札が少し厚みを持つほど詰められていました。コレは本格的に厄介な頼み事でもするつもりかと身構えたんですが、ヤツはいきなり「済まなかった」と言い俺に軽く頭を下げたんです。子供のことなんて気にもなりませんでしたよ。アイツは決して頭を人に下げる様子が想像出来るヤツじゃありませんでしたから。


 それで、どういう風の吹き回しかとアイツに尋ねたんです。汚い金だったら共犯みたいで嫌だからと言う理由も込めてですね。


 そうしたらアイツはいつもの自慢気な顔に戻って言うんです。「俺には幸運の女神がついているんだ」真顔でそんなことを言うものだからどういう顔をすればいいのやら分かりませんでした。しかし、一度は諦めていた金が戻ってきたんです、話くらい聞いておこうと思いました。


 それから安井が語るのは数々の自慢話、競馬、競輪、競艇、パチンコ、オートレース……その他いろいろ、何故かその日の気分で選んだ騎手や選手が大当たりを繰り返して小金持ちになったそうです。いや、どう考えても確率的にはあり得ないと思うんですがね、本人は「引っ越しをしてから突然勝てるようになった」と言っていました。ちらりと、そうか、この子はコイツの家族か。と納得しそうになったんですがね、その時子供が私の方を見て睨んだんです。アレは子供の目をしていませんでしたよ、悪ガキの方がよほど可愛げがあるという暗いじゃ悪な視線でした。


 その視線に射すくめられてようやく『ああ、コイツはこの子供に気がついてないんだ』と分かりました。しばしの自慢話を終えた後、お金は色をつけて返したからこれでチャラだと言いました。私も関わりたくなかったのでその後のギャンブルの誘いを断って帰宅しました。アイツはこれから競馬に行くんだと言っていました。


 翌日のことですね、久しぶりに万馬券が出たそうです。ああ、アイツのことだから上手く当てたんだろうなと思いつつ、突然小金が入ったので放っておくことにしました。それからはしばらくアイツの話は噂にも聞きませんでしたよ。


 それから何年後だったかな……正確な年数は覚えてないのですが一年やそこらではなかったですね。同窓会で安井が巨額の脱税をしたらしいと聞きました。


 まあギャンブルのリターンなんてまともに申告しているヤツも少ないですからね。驚きはしませんでしたよ、話を聞くところによると、追徴金がかなりかかる上、それまで遊び歩いてギャンブルで金を作ってはそれを使っていたので一生かかっても支払えない税金を課されたと聞きました。


 ああ、ここまでなら幸運の女神を下手に使ったバカと言うだけで終わりますね。実はその後少し調べてみたんですがね、アイツの脱税は自分から申告したんだと言うことになっていました、もちろん確定申告じゃないですよ。


 少し調べたところ、『私は未納の税金がある』とアイツのスマホからメールが国税庁に送られていたそうです。本人には心当たりがないと言い張っていたのですが、相手が取り立てのプロですから、その辺は間違いないようですね。


 もちろん安井のヤツはそんな自責の念を感じるタイプではないですからね。多分俺が席を立ったときにアイツの隣でニコニコしていた子供、だと思いますよ。こういうのって幸運の女神って言うより座敷童の方が近い気もしますがね。まあとにかくアイツは当分表に出てくるのは無理でしょうね。


 そう言って川田さんは話を終えた。


 悪銭身につかずとはこの事だろう。少しだけその子供の詳細が気になったが、子供がいたと言うこと以外何故かそれが気味の悪いものだったとしか覚えていないそうだ。

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