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日本怪奇譚集  作者: にとろ


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暗闇の日

 三密などと人と疎遠になりがちな社会情勢が過ぎたが、怪異とは人から話を聞く物なので自宅にこもっている人が多い時期が過ぎても怪談を聞く回数は減ってしまった。


 そんな時、Yさんの伝手を辿ってNさんが不思議な体験をしたというので話を聞かせてもらった。


「本日はどうもありがとうございます。なにぶんこのご時世で話も大っぴらに聞けない期間が長かった物で……」


「いえ、あの時のことを誰かに知ってほしかったですし構いませんよ。ただ……この話は夢落ちかもしれないので気を落とされないようあらかじめ言っておきます」


 私は少しがっかりしつつもNさんから話を聞くことにした。


「あの日は休みだったんですよ。休日なので遅めのアラームをスマホにセットして寝ていたんです」


 翌日、スマホのアラームで目が覚めました。時刻は九時にセットしていました、ただ、何故から部屋の中に朝日が差し込んでこないんです。部屋の中の電灯の方が明るさで勝っているんです。おかしいなと思ってカーテンを開けると窓の外は黒い絵の具をぶちまけたように闇が広がっていました。


 はじめは時刻を間違えたのかと思いスマホを確かめたんです。スマホは確かに九時を表示していて部屋の時計も九時になっていました。


 キツネにつままれたような気分でしたが、ラフな格好に着替えて財布とスマホを持って家を出たんです。それでも玄関から先は全くの闇でした。一歩踏み出してみたんですが、地面は確かにあるんですよ、ただ見えないだけでね。


 困惑していたんですが、まだ閉めていなかった玄関ドアの方から何かが出てきたんです。火の玉でした、いえ、もしかしたらあれを人魂と呼ぶのかもしれません。その人魂は玄関を閉めて私の前に来ました。何故か『ついていこう』と思って人魂が向かう方向にそれが照らす場所を踏みしめながら歩いたんです。


 しばし歩くとアスファルトから砂利の地面に立っているのが分かりました。ただ、それがどこなのかは分からないんです。分からないんですけど人魂について来いと言われていると確信していたんです。そのまま進んでいくと足に何かが引っかかって転びそうになりました。足元を見下ろしたんですが、そこは賽銭箱があって、ガラガラ鳴らす鐘もある近所の神社でした。


 ちょうど財布を持っていたので小銭入れから適当に一枚投げて鐘をガラガラと鳴らしました。途端に光が溢れて見慣れた光景が……と言うところで目が覚めたんです。


「ではそれが夢だったということでしょうか?」


「まあ、一応夢ですむのかもしれないんですがね……時刻を見ると午前十時になっていてスマホのアラームは九時にセットしていたのですがスヌーズですら目が覚めなかったことになりますね。それに家を出ようとすると靴に砂利が付いていました、最近はアスファルトとコンクリのような舗装された道しか歩いた覚えが無いんですけどね」


 それからさらにNさんは続ける。


「気付け薬の代わりにコンビニに行ってチューハイと肴を買って支払いをしようとしたんですが、小銭入れには言っていたはずの五百円玉が無くなっていました。一応お札はあるので支払いは出来ましたが……コレを全て偶然や気のせいで片付けていいんでしょうか? 確かに夢であったと片付けることも出来るのですけど、その体験をしたのがお盆だったのでどうも偶然とは思えないんですよ。ただ……お盆なのにお墓では無く神社に案内する人魂というのもなんだかおかしな気もしますけどね」


 以上がNさんの体験した顛末だ。偶然とも言えるのだが、偶然が三回も重なるのだろうかと疑問には思った。ただ、彼をイタズラに怖がらせるのも悪いので『ご先祖様が会いたくなったんじゃないでしょうか』と曖昧な返事を返しておいた。

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