幽霊に殺された
Tさんは昔FPSゲームのランカーだったそうだ。そんな彼がゲームを乗り換えた理由を話したいと言う。私に意見を求めるというので聞かせていただいた。
「どうも、お世話になります」
そう言って彼は喫茶店の奥の方の席から呼んだ。あまり大っぴらにする話ではないのだろう。
席に着くとコーヒーを二つ注文して話が始まった。
「それで、どのようなお話なのでしょうか?」
「それがなぁ……死人に殺されたってっいったらしんじるか?」
「呪いとかそういった意味でしょうか?」
「いや、ちゃうな。じゃあ話をしようか。まあとあるFPSなんだけど、バトロワゲームだったな。その時はソロモードだった。要するに百人が参加して最後の一人まで対戦をするって物だな。俺もそこそこの腕はあるんだがな……参加してロビーに入ったんだよ。少しして人数が集まったからフィールドへ降下すんだけどな、俺のすぐ側に着地した奴がいたんだよ。それが初心者丸出しのムーブだったんでな、武器なんてなしで素手で殴り倒したんだ。ハッキリ言って雑魚だったよ、その時はな」
まだ話が見えない、ゲームとどう関係があるのだろうか?
「それで武器を漁ってたんだけどな。後ろからヘッドショットを食らったんだ。その時に表示されたメッセージがさっき俺が倒したキャラだったんだよ。もちろん死んだふりなんてシステムは無いぜ? じゃあどうやったのかって、真っ先に思い浮かんだのはチートだよ。そんな何回も使えない手を最序盤で倒された程度で使うのはよく分からなかったな。とにかく俺はそのたった今倒したキャラに殺されたんだよ」
「なるほど、しかし怪談ということなんですよね? それはただ単にチーターが隠れていたというだけでは?」
そう言うと彼は嫌そうな顔をしてから、気が重そうに答える。あまり気分のいいことではないようだ。
「それだけなら運営に報告すればすむ話なんだよ。でもその頃は一戦でも多く戦っていたかったし、ランクマッチでもなかったので二度とあわない奴に熱心になる気がしなかったんだ。だからそれだけの話だったんだが……何故かチートを使ってきたやつの名前を覚えていたんだ。本名っぽい名前だった、まあネットで本当の事なんて無いわけで、それも知り合いの名前を名乗ったか、適当に日本人の名前を使ったらそうなったんだと思ってた。でも問題は翌日なんだ」
新聞……ああ、俺見たいのが新聞を取っているのが珍しいか? 上司が新聞読んでない奴とは会話が成立しないなんて言う奴でな、俺としては十連ガチャでも回した方が有意義な金の使い方だと思うんだが、上司様には何か新聞を神聖視する理由があるんだろうさ。
そういやチーターの話だったな。テーブルに新聞を投げたときにちょうどお悔やみ欄が目に入ったんだよ。そこに書いてあった名前なんだけどな、まだ中年くらいの年だったんだが、死因こそ隠してあったが、名前は出ていたんだ。間違いなく昨日俺にヘッドショットを決めてきた相手だったよ。
「で、だ。あんたはコレを偶然だと思うか?」
私は『なんとも言い難いですね』と答えておいた。
「俺はなぁ……必死に誰かに自分が死んだことを伝えたかったんだと思ってるんだよ。ま、あくまでも俺の想像だがな、ありがたいことに同じようなことをする奴は他にいなかったよ。今思うのは対戦相手が生きている人間であることを祈るばかりだよ」
幽霊が出るという話はよくあるが、幽霊はサイバーな世界までやって来たのだろうか? 私は自由な幽霊だなと思った。彼によると、結局死因は不明なので分からないが、そのゲームから乗り換えたし、もう関わるつもりもないようだ。




