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日本怪奇譚集  作者: にとろ


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開かずの間の名前

 Wさんの実家には『開かずの間』があるそうだ。その部屋に入ったことがあるらしい彼に話を聞いた。


「あれは……軽率でした。まだ子供の頃で書いてある文字の意味も分からなかったんです」


 その部屋は実家の隅の方に戸が付いていました。ただ、誰もその部屋に入ろうとはしませんでしたし、その部屋には近づこうとすると怒られるような状態だったんです。


 でも、その日は祖父が亡くなって初めての法事だったんです。法事はセレモニーホールで行われて、当時の僕は出る必要がなかったんです。子供はうるさいって思われたんでしょうね。実家で留守番をしろと言われて、その時は待機をしていたんですよ。


 なんの気なしに実家を探検したんです。となると当然その開かずの間も気になるじゃないですか。だからその扉の前に行ったんですよ。


 部屋にはドアノブの隣に封をするようにお札が一枚貼られていたんです。ドアと壁を貼り付ける感じって言えば伝わりますかね?


 とにかくそれがお札だと分からず『なんか紙が貼ってある』くらいに思ったんです。そこで、貼り直せばバレないだろうと浅知恵を発揮してそれをペリペリと剥がしたんです。ただ、綺麗に剥がせたと思ったら、すぐにお札は真っ黒い灰になって床に落ちたんです。『やっちゃった』と思いました。でもそこまでしてしまった以上入らないわけにもいかなかったので、意固地になってドアを開けたんです。


「その中には何があったんですか?」


 その部屋の中は……当時は漆塗りというものがどんなものか分からなかったんですが、四方の壁が真っ黒に塗られてその上に文字が書いてあったんです。床は畳でした。


 何でこの部屋が入っちゃダメなのかと思い、壁をよく見たんですが、当時はよく分からない漢字がたくさん書いてあるなって思ったんです。


 その文字を追っていくとらせん状に上の方から文字が書いてあるようでした。一番下の方を見ていくと見慣れた漢字が書いてありました。その時思ったのは『おじいちゃんの名前だ』と言うことでした。その時祖父の法事をやっていましたし、漢字もろくに読めなかったんですが、見慣れた文字列なのでそれが祖父の名前だとは分かったんです。


 問題はその横に自分の名前が書いてあったんです。意味は分からなかったんですが、良いものじゃないだろうなと言うのは分かりました。背徳感と共にテレビをぼんやり見ながら家族が帰ってくるのを待ったんです。


 その後は当然ですが大目玉を食らいましたよ。仕方がないとは思うんですけどね。ただ、「おばあちゃんの名前が書いてあったやろ?」って聞かれたので『僕の名前が書いてあったよ!」と言ったんです。その途端に空気が凍りつきました。


 それから大騒ぎになって、僕は蚊帳の外のまま何かマズいことを言ったなという自覚はありました。でも何がマズかったのかは分かりませんでした。


「それから何かあったんでしょうか?」


 私がそう訊ねると、Wさんは少し暗い顔をして答えた。


「あの時は意味が分からなかったんですが……未だに家族はみんな元気なんですよ、祖母も九十を超えているのにピンピンしているんです。ただ、僕が健康診断を受けたら内臓に影が映ったということで、今度精密検査をするんですよ。あまり考えたくはないんですが……もしかしたらあの名前は……いえ、考えないようにはしているんですが……」


 それだけ言って話を終えた。まだ何かが起きたわけでもない話だが、私は彼の健康診断の結果はあえて聞かないようにした。

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