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日本怪奇譚集  作者: にとろ


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その場しのぎ

「助かりますよ、怖い話をすればお金をもらえるなんてサイコーですね」


 そう語るコタローさんに私はゲンナリとしていた。お金目当てでも悪いとは言わないが、そのために階段をでっち上げられても困る。そこで『怪談なんですよね?』と念を押したが、『そうっすよ、どっちかというと不思議な話のような気もしますが』と言った。判断は聞いてからにしようと思い、安い謝礼袋と、普通の謝礼袋がカバンにあるのを確認してメモを取り始める。


「実はですね、俺ってプログラマーなんですよ、ああ、設計とかそういう高度なことをやる人じゃないっす、実際に設計通りコードを書く下働きですよ」


 下働き……なんですか? プログラマと言えばキーボードをカタカタしているイメージなんですが。


 コタローさんは私の言葉に苦笑した。


「そういう誤解ってどこから出たんでしょうね? まあ実際のとこ、上から降ってくる『こう書け』という仕様書通りにコードを書くだけですよ。実際に頑張るのは上の設計連中ですよ」


 そう言ってから、彼の怪談を始めた。


「設計通りに書いたんですがどうしても動かないコードがあったんですよ。イライラしっぱなしでしたよ。どうやってもきちんと設計通りに書いているのに動かないんです。そこでクッソムカイツいたので、『//動かないならぶっ壊すぞ』というコメントを動かないところに入れたんです。コメントっていうのは言語によりますけど実行されるときに影響がないものなんですけど、何故かそれを入れると動いちゃったんですよね」


 で、以外と動いちゃったので癖になったんですよね、会社の動かないところにそれを突っ込むと何故か動くようになったりするんですよ。こういうオカルトじみたプログラミングをする人は案外いるらしいんですが、そのおかげで機械を罵倒するボキャブラリーはかなり増えましたよ。最近書いたのはコメントが罵詈雑言で埋め尽くされていたりします。


 良くない癖なのは分かっていたんですが、どうしても便利なので仕事中にストレス発散も兼ねてやってたんですよ。


 そこで少し彼の顔が暗くなった。


「問題はそのコードが客に渡す予定の物だったって事なんですよねえ……、見せられるわけないじゃないですかあんなコード。でも消しちゃうと動かないし……どうすればいいんでしょうね? コレもコンピュータをバカにした罰なんでしょうか? 今上長から『早くコードを出せ』ってせっつかれているんですよ! こんな怖い話しないでしょう? だからお願いします、謝礼ください!」


 私はそこで一つの疑問をあげた。


「素直に謝った方がいいんじゃないでしょうか? 謝礼はお渡ししますけど、生活が出来るような金額じゃないですよ?」


 そう言うと彼はさわやかに答えた。


「退職代行を使う資金の足しにしようと思ってます! なかなかアレな企業なので退職するにはちょうどいいかなと思いまして」


 多分、この時謝礼を渡す私の顔は大層引きつっていたと思う。彼から当時の職場の名刺はもらったのだが、その会社の名前を検索しようとは思わない。出来ることなら彼もその会社もつつがなく動いていることを信じるばかりだ。

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