追跡者
ムカイさんは小学校時代からゲームをプレイしていた女の子だった。少なくとも主人公が男だけという選択肢しかない時代でもなかったため、どのゲームもそれなりに楽しめた。両親からはいい顔をされなかったものの、勉強をしっかりしてそれなりの成績を出していたので問題にはされなかった。
「問題無かったんですけどねえ……あんなことがあるとね」
彼女は渋い顔をしてようやく話を始めた。
「大学に入ってすぐです、クレジットカードが作れるようになったので早速PCゲームを買おうと思ったんです。なにしろ現金でPC向けDLゲームの決済をするのは面倒ですから、カードを使えるようになったのでPCでFPSとかをやろうと思ったんです。ただ、今までは学習用PCしか持っていませんでしたし、大学の生協PCはゲームをするのにあまりに力不足だったんです」
しかし大学に入った直後に使えるお金は入学祝いの微妙な金額だ。ゲーミングPCの値段は青天井なのでどこまで妥協するかを考えていた。
そんな時、彼女のスマホに通知が入った。それは時々不要品を売っているフリマアプリの通知だった。無視しようかと思ったところで中古という選択肢に思い至った。
「中古ならスペックが極端に高くないにしても、新品よりは安いだろうと思ったんです。ですから早速、検索欄に『ゲーミング』と入れてサジェストに出てきたものを見て言ったんです」
そこには結構な数のPCが出品されていた。彼女の知識は数字が大きいほどスペックが高い程度のものだったが、運良く一世代程度前のPCが大学の入学祝いとほぼ同じ金額で出品されていた。
迷うこと無く入札し、交渉もなにも無く購入した。値下げ交渉をしようとは思わなかったそうだ、面倒なことをしているうちに横から買われては困ると急いで購入ボタンを押した。
「それで三日ほどしたら届いたんです。早い発送でした。配線を繋いで電源を入れるとOSが起動してデスクトップが表示されたんです。早速ストアからいろいろなゲームを購入しました。その時はクレジットカードって便利だなって思ってゲームを楽しんだんです」
「その翌日なんですが、早朝にドアチャイムが鳴ったんです。無視して狸寝入りを決め込んだんですよ。こちらは昨日からほぼ徹夜でゲームをプレイしていたのに朝っぱらから対応なんて出来ませんよ。だから無視していたら諦めたようで鳴らなくなりました」
彼女は目が覚めてからドアポストを見たが、中になにも入っていないので大した用事でもなかったのだろうと判断した。
「でもね、それから早朝と深夜にチャイムが鳴らされることが増えたんですよ。寝不足だったので耳栓を買って寝ていました。どうせ碌でもない用事に決まっているんですから虫ですよ」
ところが、それから一週間後、彼女の借りているマンション前にパトカーが止まっていた。なんでも、不法侵入しようとしたものがいたので通報されたらしい。彼女は直感でチャイムを鳴らしていたヤツだろうと思った。
それから数日後、小さなニュースとして、フリマアプリで格安で出品したものを配送の追跡番号から購入者を割り出し、女性ならストーカー行為をしていた常習犯だと報道されていた。
「そういえばあのPCって起動したときに初期設定がなかったんですよね。どうも大体の位置情報を送るソフトが入っていました」
「ではもうそのPCは廃棄したんですか?」
「いえ、PCに罪はありませんから、初期化して本当に必要なものだけを入れて使っています。よく考えてみるといくつかのゲームでアンチチートプログラムが動いた時点で何かシステムに関わるプログラムが入っていると気づくべきでしたね。とはいえ、今ではすっかり無害なPCになりましたよ」
そう言って笑うムカイさん。私の謝礼も新しいグラフィックカードを買うための資金にさせてもらうといっていた。まったくたくましい人だなというのが私の感想だ。