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日本怪奇譚集  作者: にとろ


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チェーンスモーカーの憂鬱

「幽霊ってね、タバコが苦手なんですよ」


 そう語るのは東海林さん。彼は悪いことではあるのだが、高校生の頃にはもうタバコの味を覚えていたらしい。今なら絶対に怒られるだろうが、当時は明らかに高校生でもタバコを買える時代だった。つまりこの話はそういう時代の話であると知っておいて欲しい。


「タバコが苦手ですか、何か体験されたんですか?」


 私が話を聞こうとすると東海林さんは食い気味に返事をした。


「そうなんですよ! そりゃもうしょっちゅうおかしな事があるんですよ。そんな時に冷静にタバコで一服すれば日常風景に戻っているんです、初めて怪異に遭ったのは高校時代です」


 彼の通っていた学校はそこそこ治安が悪かった。とはいえ、当時はそんな学校が珍しくなかった。そんな中、帰宅途中で初めて妙な体験をしたという。


「授業中に雨が降っているのを眺めていたので帰宅途中に霧が出るのもおかしくないとは思っていたんです。でも流石に雨の後だからで片付くような量の霧では無かったんです。まるで大量のドライアイスでも使っているかのような霧でした」


「何か心霊現象があったんでしょうか?」


「霧事態もそうですが、霧に混じって子供の笑い声がしたんです。まるで自分を誘っているようでした。そこで一旦落ち着こうと学校から離れているのを知っていたのでタバコを一本取りだして火を付けてふぅと煙を吐き出したんです。そうすると子供の声が『ゲホッゲホ』と咳き込むようになってすぐに霧が晴れたんです。学校と家のちょうど中間くらいでした」


「その時に子供はいなかったんですか?」


「もちろんですよ、コレで子供が実際いたら心霊関係ではなくなりますからね。ただ、その時の経験でタバコを吸っている間に不思議なことは解決するって覚えてしまったんです」


 彼によると、それはまるで刷込みのように何かに出会ってもいいようにライターとタバコを持ち歩いていたという。


「それからは当分なにも無かったんですが、大学に行き始めてから不思議なことがあったんですよ。一人暮らしをしているとドアチャイムが鳴るんですが、ドアスコープから覗いても誰も見えないし、開けても誰かがいた形跡が無かったんです。そこで、タバコを吸いながら次にドアチャイムが鳴るのを待ったんです。そしてまた音がしたので郵便入れ……ああ、当時は家賃を節約していたのでドアに入れるところがついているだけでそこに郵便受けは無かったんです。だからそこを開けてタバコの煙をふぅと外に流したんですよ。そうしたらまた咳き込む声が聞こえて二度と誤反応はしなくなったんです」


 それからもタバコにのめり込み、自分で紙巻きタバコを葉っぱから買ってきて巻いたり、そうそうは出来なかったがパイプも試したりしたらしい。


「結局タバコが一番効いたんですがね。自分で巻いてもそんなコスパが良くないですし、なにより怪異から逃れるのに悠長にタバコを巻いている暇があるのもおかしいなと思ってすぐに辞めました」


「タバコは魔除けみたいなものなんですね」


「ええ、私によってくる幽霊はどうもタバコが苦手な連中ばかりのようです。だからタバコを吸うだけで霊として害はほとんど無いんですが……」


 そこで彼の顔が陰った。


「健康診断で相当数値が悪かったんですよ。タバコをやめろと言われたんですが、十代から始めるような人がそうそう辞められないでしょう? なので今も変わらず吸っているわけですが……なんだか寿命を削っているような気がするんですよね。それでも幽霊に出会うより余程マシなので我慢していますけどね」


 彼はそう言って力なく笑った。私はお礼を言いながら話を終えた。彼の健康寿命が長いことを祈るばかりだ。

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