子孫への手紙
藤田さんは高校時代、微妙に恐ろしい手紙が届いたらしい。もちろん不幸の手紙などではない、説明がつかないものだそうだ。
「害があるわけじゃないんですけど……世の中にはどうやってるのか知りませんが怖いことがあるんだなって……」
藤田さんは高校に入ってから真面目に授業を受けていたのだが、ある日、帰宅すると藤田さん宛の封筒が届いていた。真っ白な封筒で、送り元すら書いていない。ただ藤田さんのフルネームと住所が書かれているだけだった。
奇妙に思いながらも自分の名前が書いてあるので遠慮せず封筒を開けた。すると二枚の紙が入っていた。なんだろうと思いながら読むと、寄付のお願いだった。
これが慈善団体などなら別に珍しくもない、手当たり次第送っているのだろうと思う。しかしそれなら封筒に組織の名前くらい書くだろうし、こんな怪しげな封筒を送ってくる必要は無いだろう。
そこに書かれていた名前は宗教団体だった。あまり有名ではないが、誰も知らないほど小さくはない、微妙な宗教団体だった。なんで関わりもない自分に送ってくるのかと考えたが、そんな所と関わった覚えも無いので無視することにした。
しかしそうなると相手の団体は、郵便を送ってくる以上こちらの住所を知っていることになる。放置するのもマズいかと思いその日帰宅した父に話をしてみた。すると、『ああ、お前にも来たのか……』と歯切れ悪そうに答えた。
「何か知っているの?」
そう訊ねると、父親は『爺さんの信じてた宗教だよ』とあっさり答えた。祖父はもう何年も前に亡くなっている、今さらその宗教が自分相手に送ってくる理由が無い。
「いやな……爺さんが死んでからしばらくして、俺宛にそこから寄付のお願いが来たんだよ。爺さんが俺の名前を喋ったのかもしれないがどうにも不気味でな、届いたらさっさと捨てたんだが……それにしても……いや、なんでもない」
「なんでもないってことはないでしょ? 何か知ってるんじゃない?」
藤田さんがそう訊ねると、奇妙な事を教えてくれた。
「爺さんってお前が生まれる前に死んだだろ? おかしいんだよな、俺への手紙なら爺さんが俺の名前を喋っただけなんだろうが……どうやってお前の名前を知ったのか少し気になってな」
藤田さんが幼い頃にはもう既に祖父は鬼籍に入っており、思い出らしい思い出もない。そもそも新興宗教を信じていたことすら知らない。
「父さんから漏れたってことはないの?」
「俺だってお前を売るような真似はしないよ。その宗教団体なんだがな……信者の話によると教祖が予知を出来るらしいんだよ。そんな馬鹿なって思ってたんだが……もしかしたらお前の名前がそこの教祖には……いや、それを渡してくれ」
藤田さんが手紙を渡すと父親はくしゃくしゃに丸めてゴミ箱に放り投げた。
「忘れた方がいい。関わっていいことがあるわけでもないしな。コレは親父の問題だし、俺らが関わる理由もないだろ」
手紙自体はそれきり届いていない。ただ、新興宗教のトップが謎の力を持っているかもしれないと言うのはなんとも薄ら寒いものだった。
「とまあこれが私の怖い話です。ご満足頂けましたか」
「ええ、ありがとうございます。その団体とは縁が切れたんですか?」
「そうですね、あれ以来手紙は来ません。ただ……今、結婚を考えている相手がいるんですよね。もしも子供が出来たらその子にもあの手紙が来るかもしれないと思うといい気はしませんね」
そう言って彼女は話を終えた。その宗教団体はトップが死んで勢力を減らしたものの、未だにそこそこの信者を抱えているらしい。




