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日本怪奇譚集  作者: にとろ


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無かったはずの御神体

 Xさんはここ最近実家に帰っていないらしい。電車で簡単に行ける関東圏なのにそこに行かないのは理由があるそうだ。その理由を伺った。


「まあ……要するにやらかしちゃったんすわ。危なくないと思ったんですがねえ……幽霊みたいなものは出てきませんがそれでもよければ」


 そう言い、彼の少し前の話を教えてもらった。


 俺とその仲間なんすけど、ええっと……偉い人に言わせると『教育困難校』って言うんすかね? まあ要するに地区の底辺だったわけですよ。で、当然俺もその一人なわけで、類は友を呼ぶというか、そういう高校に集まったんで素行の悪い連中が多かったんすよ。ああ、地区のスーパーにはウチの高校の制服での入店が禁止されるほどでしたね、酷くないっすか?


 とはいえ、仲間にそのスーパーで万引きしたのを自慢しているヤツもいたので無理も無いっちゃ無いんですが。とにかく、そんな集まりに大学に行けず、腐っていた俺を含めた連中がいたんです。で、当然ですがそうなると今風に言うならエコー何たらって言うんでしたっけ? まあそんな感じで毛嫌いされる行為をする集団だったんですよ。


 高校も出てぶらぶらしていたんですけど、その日は多少暑かったんですよ、その日の深夜に集まると集団で駄弁っていたんですが、徘徊をしていると汗をかくわけで、俺らとかスーパー銭湯すら出禁にされてたのでどこか涼める場所が欲しかったんですよ。


 そこで誰かが『あの神社使おうぜ』と言いだしたんです。神社と言っても社殿はありますけどそれほど大きなものじゃなかったんです。ただ背の低い建物なのでまわりの建物に隠れて日が当たらず二十四時間涼しい場所と思われていたんです。金もロクに無いので全員が賛同してそこに行ったんすよ。


 神社なんですが、鍵なんてものはかかっておらず中に入れたんです。皆がスマホのライトをつけて照らしたんですが、ホントなんも無いんですよね。神社って言ったら仰々しいイメージですけど、こんなもんかと数人がコンビニで酒を買ってきて酒盛りを始めました。高校を出てすぐなので悪いことは知ってますがね、コンプライアンスなんて言っても大学にも高校にも企業にも所属していない連中が一々気にしたりはしませんよ。そんな集まりなのですぐに盛り上がってワーワー騒いだんです。神社に入っていることに気づかれた様子も無いので気が大きくなっていたんでしょうね。


 それで、酒が切れたんで『俺買ってくるから金くれよ』と行ったヤツが酒を飲むヤツから小銭をもらって出て行こうとしたんです。その時転んだ音と何かが割れる音が聞こえました。スマホでそちらを照らすと、立ち上がったヤツが転んでいて、その周囲に大きめのキラキラした破片があったんですよ。神社で光るもの、全員『御神体』という言葉を思いだして次々に帰っていったんです。


 それから翌日には神社で騒いだのが不良グループだろうって早くも目を付けられていたんすよ。まあ酒の空き缶も残してましたし当然ッすね。


 ただ、住人の方はそうもいかないらしく、御神体を壊した犯人の特定に躍起になっていたので、しばらく集まるのは控えようとスマホでメッセージを送ったんですわ。で、それから間もなく、御神体を壊したヤツが直線で見通しのいい道路をバイクで走っていたときに何故か転倒して半身不随になったんですよ。皆縮み上がってさっさと地元から出ていきました。御神体に宿っていたものの目の届かないところへと散っていきました。今じゃ連中がどうしているかは分かんないですね。


 不思議なのはあの神社に忍び込んだとき、全員がスマホで中を隅々まで照らしたのに御神体が無かったのを確認しているんですよ。アレが一体なんだったのかは分かりませんが、無かったはずのものが降って湧いたって事実の方が怖かったですね。


 そんなわけでこうして上京してバイトをやってるんすよ。良い暮らしは出来ないっすけど、あそこに住み続けたらどうなるか分かったもんじゃ無いっすからね。


 そうしてXさんの話は終わった。結局、彼らが何故御神体に気づかなかったのは分からない。ただ、私はふと、そういえば神様へのお供えでお酒っていうのは定番だったよなあ、などと考えていた。今の神が清酒ではなく、缶入りのビールやチューハイでも満足するのかは分からないが、なんとなく酒が関係しているような気がした。

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