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日本怪奇譚集  作者: にとろ


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見てないよ

 Sさんはライバーの配信を見るのが趣味だ。彼のスタンスは所謂箱推し、なので新人が出てくればすぐにチェックしている。その時に偶然のような出来事があったらしいので話を聞いた。


「あの日はクタクタで帰ってきたんですが、大急ぎでレンジに夕食を突っ込んでタイマーをかけてからシャワーを浴びて大急ぎでPCを起動したんですよ。なにしろ新人Vのお披露目配信がありますからね、急いでブラウザを起動して配信の待機画面を表示させたんですよ」


 箱推しというのは要するにライバーの所属しているグループをまとめて推すことだ。そして彼の推している『箱』で新人がその日デビューするということで気が急いていたらしい。


「そこまでは順調だったんですよ。ただ、配信待機をしているときにブラウザが落ちたんです。配信者を多数映していたのでメモリが足りないのかと思い、いくつか優先度の低い配信を閉じたんです。それでなんとかブラウザは安定したんですよ」


 なんだろう、まったく怪談の様子が全く無いのだが、大丈夫だろうか? 早くも私は心配になりつつあった。


「まだシルエットのみ公開でしたからね、どんなモデルでどんな声なのか期待に胸を膨らませて配信準備に入った画面に見入っていたんです。すると、液晶画面が真っ暗になったんです。もちろん昔の蛍光管がバックライトになっているタイプではないので、光源が寿命って事はないんですよ。なので大急ぎで配線をチェックして緩みがないように繋ぎ直して電源をもう一度入れたんです。そうすると今度は電源が付いたのですけど、もう新人がデビューしていました」


「それで、怪談なんですよね?」


 私は思わずそう訊ねてしまった。


「そうですね……怪談というか不思議な話ではあるんですよ、怖いかどうかは別としてですが」


 そう言ってから話の続きを語り出した。


「そうしたら今度はスピーカーのトラブルが起きたんですよ。接触不良で音が出ないんですよ。仕方ないので大急ぎで接点復活剤を塗って何度か挿し直したらようやく音が出たんです。そうして音が出たところで気がついてしまったんです。新人Vの声なんですが……会社の後輩の声で間違いないんですよ。大きくない会社なので新人は顔と名前が一致するんですが、どう考えても新人の子の声なんですよ。そこで、あぁ……バレたくなかったんだろうな、と思ったんです。個人的にはアレは彼女が生霊を飛ばしたか、執念かで私が配信を見るのを妨害しようとしたのだと思っているのですが、人間にそんな力ってあるのでしょうか?」


 偶然と呼ぶにはあまりに多い出来事、何か作為的な物を感じたが、その新人とやらが怖がられないように私は『そう言うのは気にするから気になるんですよ』と誤魔化しておいた。


 彼は最後に『知られたくなかったんでしょうし、その子の配信にはコメントもつけませんし、メンバーシップにも入っていません。気づかれないように気をつかっていますがバレたらお互い気まずいんですよねえ……』と言っていた。私はその新人が平穏に配信出来ることを祈った。

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