表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
310/316

急病の助け

 上島さんは残業をしていたときに同僚の森田さんに、『今度の休み、海釣りに行かないか?』そう聞かれたので二つ返事で話に乗った。それから僅かの間の出来事だそうだ。


 深夜残業のあるような会社なので、休みの日でもないと夜釣りすらできない。そんなわけで週末の日曜日に出向くことになった。


 それからその週は残業を多めにしてなんとか今週中の仕事は終わらせた。これで帰って土曜日丸々眠れば日曜日に釣りに行く体力くらいは回復するだろうと思っていた。


 そして帰宅し、スーツを脱いだところでスマホの着信音が鳴った。仕事の増量だったら嫌だなと思い通知欄を見ると、しばらく会っていない母親の電話番号だった。わざわざ連絡するのは余程のことだと思い、すぐに電話に出た。


「あんた! おばあちゃんが危ないの! ちょっと帰ってきんさい!」


 有無を言わせぬ言葉に釣りのことが頭をよぎったが、実家を出るまで祖母にはよくしてもらっていたことを思い出し、簡単に森田さんに行けなくなった事を伝えると、向こうは露骨に残念そうだったが、身内の病気ということで『釣りはまた誘う、急げ』という言葉を受け取ったので、お詫びとお礼を言ってすぐに部屋を出た。


 そして駐車場まで駆け足で行き、エンジンをかけたとき、気が急いていたのかパーキングにしたまま空ぶかしをしてしまった。こんな初歩的なことをやらかす自分にも驚いていたが、とにかく急ぎで病院に向かった。


 なお、上島さんは『速度違反だったと思いますよ、スピードメーターを見る余裕も無かったので、多分速度違反をしているだろうと言うだけなんですけどね』と語った。


 そうして大急ぎで祖母が担ぎ込まれたという病院に車を止めると、救急のところで事情を説明して面会をさせてもらった。


 彼のおばあさんは確かにICUに入っていたのだが、けろっとした顔でこちらを見て『よう来てくれたな』と涙ぐんで言った。周囲に集まっている家族に話を聞くと、祖母は夜遅くに急に頭が痛くなったと言いだしたので救急を呼んだそうだ、年が年なので卒中などの危険もあるため大急ぎで病院に行き、上島さんに連絡を入れたそうだ。しかし連絡を入れてからすぐに祖母は痛みが治まって、自分で歩けるくらいになったらしい。


 演技を疑われたそうだが、初めの方は本当に苦しそうにしていたので精密検査となった。そしてどこも悪くないという診断が後で出たそうだ。


 そんな理由で土日が潰れたのだが、月曜日に出社してみると森田の姿が見当たらない。近くにいた人に病欠か? と訊ねると言いにくそうに『森田さんは亡くなりました』と言われた。


 アイツは健康的な方でも無いが、そう簡単に死ぬような奴ではない。そこで話を聞くと、釣りに出ていた船が高波に煽られて転覆したそうだ。それに巻き込まれて亡くなったということらしい。


 最後に上島さんはこう付け加えた。


「俺はね、ばあさんが助けてくれたんだと思っているんですよ。ああ、もちろん詐病なんかじゃなく、なんとなく虫の知らせが届いたのではないだろうかと思ったんですな。それと余談なんですけど、俺の祖父って旧日本海軍にいたそうなんですよ、祖父の知恵か祖母の勘かは分かりませんが、とにかく先祖に助けてもらったって事でいいんじゃ無いでしょうか」


 そう語る上島さんは、折に触れ実家の方まで車を走らせて祖父の墓の世話をしているそうだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ