あそこは嫌だ
これはAさんが祖父を亡くしたときの話だ。彼女はその事で奇妙な体験をし、なんとも言えない結末に落ち着いたらしい。
「後味の悪い話なんですが……人って一体どこまでこだわるんでしょうね?」
祖父はもう結構な年で、医師からも『生きていることが奇跡みたいなもの』と言われていましたから、毎回面会に行くたびに次に来たときも出迎えてくれるかな? なんて思うくらい年でした。
それで、毎週面会に入っていたんですが、ある日、夜中に両親が『病院に行くぞ』と言い私の手を引いたので察しの悪い私でもなんとなくその意味が分かりました。
病室に入ると祖父は呼吸器を付けて、もう意識もない様子でした。私は『手を握ってあげて』というので恐る恐る手を握ると、まだ温かくて『生きてるってこういう事なんだ……』と思っていたのを覚えています。それから程なく、主治医が祖父の最後を宣告しました。
一通り手続きが終わったので後はお葬式となったんです。なんだか両親がああだこうだと言い争っていましたが、子供に発言権など無く、ただ布団を被って聞こえないように寝ていました。
当時はまだ四十九日なんてシステムを知らなかったので、一月と少しでお坊さんが来て何かしているなと思ったらお墓に連れられておじいちゃんのお骨を納めたわけです。人が死ぬって言うのはこういう事なんだなと感慨を覚えたのは忘れません。
そこまではよくあることだったんですが……その晩に問題が起きました。私の夢の中におじいちゃんが出たんですよ。私の方を見ながら口をパクパクするんです。何を言っているのかは分からないんですが、なんだか苦しそうな表情をしているのが印象的でした。とはいえ、それを話すのがよくないことだと言うことくらいは分かっているので両親に黙っていたんです。
でもそれが数日続いたときに限界が来ました。何を言いたいのかは分かりませんでしたが、何か言いたいことがあるのだろうと起きたときに『おじいちゃんの夢を見た』と両親に打ち明けたんです。両親も結構驚いていましたが、私を叱るでもなく、そろって『だから言ったろ』とか『おじいさんだけ別っていうのも……』とかの言い合いがしばらく続いて、両親は私を無視して各所に電話を始めたんです。
何か揉めているような声も聞こえました。ただ、それからしばらく経ってのことです。『お墓に行くぞ』と有無を言わさず連れて行かれ、祖父の墓から骨壺を取り出して大きな木の生えているお寺に連れて行かれたんです。あの木がなんだったのかは知らないんですが、そこの住職とおぼしき人に話をしてから、祖父のお骨を埋めたんです。まだ樹木葬が有名になる前でした。
当時は何をしているのか分からなかったんですが、ある程度分別がつく年になるとあの時のことを聞いたんです。
「おじいちゃんはな、はじめの寺の跡取りと酷く仲が悪かったんだよ。同じ学校に通っててな、だからこそかもしれないが、二人がそろうと始終険悪な感じがしたらしい。それで遺言には『別の寺の墓に入れてくれ』と書いてあってな、それで揉めたんだが、死人のために軋轢が生まれるのもどうかと思ってそのまま納骨したんだがなぁ……どうもそれが悪かったらしい」
そう言われました。寺の住職と仲が悪いというのは分かるんですが、墓に入りたくないってよっぽどですよね?
以降、彼女の夢に祖父は出てきていないらしい。たまには出てきてくれてもいいんじゃないかと思っているそうだが、『きっと成仏しちゃったんでしょうね』と彼女は語っていた。