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 Pさんは不運にも就職氷河期にあたってしまい、大学を卒業して実家に帰った彼はダラダラと近所でバイトをしたりやめたりしていたらしい。


「あの頃は酷かったですねえ……人格否定から親族の仕事を揶揄したり、そりゃもうやりたい放題でしたよ。え? コンプライアンス? そりゃありましたけど、それで責めるとお祈り確定な時期でしたからね、嫌も何もないんですよ。ただやらなきゃならない、そんな就活に嫌気がさして実家に帰ったんです。親も就活事情を知っていたのかそれほどきつくはあたられませんでした」


 しかしそんな彼にもいろいろとあったらしい。


「うんざりする話ですけど、就活しろって圧が強いんですよね。あの時期に空白期間持ちがまともな職につけるわけないじゃないですか、それで散々親と揉めたあげく、開き直ってフリーター生活ですよ」


 そんなフリーター生活もなかなかフリーダムな物だったらしい。


「バイト先のえり好みはしなかったんですけど、キツいところだったら即日バックレとかも普通でしたよ。どうせ向こうだって代わりはいると考えているんでしょうし、そう考えると俺一人消えても次の新しい歯車に交換されるだけじゃないんでしょうかね。だからやめるのに一々躊躇なんてしませんよ。気に食わないことがあればさっさと辞めてましたよ」


 彼はそうして、時代が悪いと言ってしまえばそれまでだが、怠惰とも取れる生活をしていた。何もかもが投げやりになり、もう就職なんてものは諦めて、親の生きている間は怠惰な生活をずっと送ればいいんじゃないかと思っていたらしい。


「その日はバイトをバックレた翌日です。夏だったんですよね、冷房を控えめにして扇風機で涼を取っていました。そんな時に『バカヤロウ!』って声が聞こえたんですよ。所謂『自宅警備員』なりの根性みたいなものもあったのかもしれません。声のした方に行ったんです。部屋を移るとそこは仏間でした。もっともらしい理由は付けられるのかもしれませんが、ただ、一つの位牌がカタカタ揺れているんです。他のものはまったく揺れていないのにですよ?」


 そんなことがあるのだろうか? 先祖の声だったとでも言うのだろうか?


「それでよく考えたんですけど、その日ってお盆の迎え火を焚く日だったんですよ。迎え火をサボろうとしていたのに腹を立てたのか、あるいは堕落している俺に活を入れようとしたのかは不明ですけど、なんとなくその日から就活を始めたんですよ。何故かその後簡単に就職先が決まって今でも務めています。今でもあの声が誰の物だったのかは分かりませんけど、多分俺がやる気無く腐っていたのを叱ったんだと思っていますよ」


 そうして今もまともに職について彼は今でもそこで働いているそうだ。

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