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日本怪奇譚集  作者: にとろ


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バイクと轢いた物

 Vさんは以前バイクを乗り回していた。暴走族というわけではないらしいが、眉をひそめられる存在ではあったらしい。


 そんな彼だが、あることをきっかけにバイクを降りたそうだ。その時の話を伺えるということで、席を設けてもらった。


「バイクを降りる理由とはなんだったんですか?」


 私の問いにVさんは苦い顔をして答える。


「まあ……嫌な思い出があるんですよ。自分に何かあったわけじゃないんですけど、やはり転んだ時の怪我を見るとね……」


「あぁ、バイクは転ぶとかなり酷いことになるらしいですね」


「そうですよ、アスファルトなんておろし金みたいなもですよ。そんな所で転んだら……分かるでしょう?」


 分からないわけではないが、あまり想像したくない光景だなと思った。そして目の前のVさんに怪我をしていた後は見当たらない。


「お友達が転んだんですか?」


 その問いに彼は渋い顔をして頷く。


「バイクに乗っている以上コケる覚悟はしているんですけど、アレはどうにも理不尽なものでして……」


 雨上がりの道を彼らの集団は好き放題走っていたらしい。信号は守るが、マフラーは爆音仕様にしていたそうだ。もちろん車検があるなら弾かれるのだが、彼らは車検を回避するために250ccという、ギリギリ車検のない排気量のバイクで走っていた。


 そんな中、田園の脇になっている道を結構な速度で走っていた。夜間だったが見通しの非常にいい道で、速度を出すのにピッタリだった。夜間は車がほとんど走ってこないのをいいことに彼らは爆音を鳴らしながら走り抜けていた。そんな時、そこそこの速度を出しているところで仲間の一人が転んだ。転倒自体はしかたないのだが、救急車を呼べば面倒なことになるかもしれない。しかしその時の傷を見て救急車を呼ぶことを決めたそうだ。


 それから関係各所にこってりと絞られて、転んだヤツの親からは殴られて泣かれたが、全て黙って受け入れた。そして手術が終わった後、ソイツのことが心配だったので頭を下げて面会をさせてもらった。その時にソイツがバイクに二度と乗るなと言われていたことを知った。


 痛々しい姿の友人を見ながら、「大丈夫か?」と聞いた。アイツは軽く笑って「俺は大丈夫なんだがなあ……なあ、あまりよく覚えてないんだが、俺たちが呼んだのは救急車だけだったよな?」と言う。


「それはそうだが……どうかしたのか?」


 質問をしたが彼は少し躊躇っていた。何か原因があるなら教えて欲しいと言うと、彼はその時のことを話してくれた。


「俺さ、あの時爺さんを轢いたんだよ」


 そんなはずはない、アレは間違いなく単独事故だった。アレだけ見通しのいい道をハイビームで走っていたのだから、アレで見えないとしたら忍者か何かだろう。


「そんなわけ……」


「分かってる、あの場には怪我人も死体もなかった。ただ、俺が走っていたときいきなり爺さんが道を横切ろうとして俺のバイクではねた気がしたんだ。そこでブレーキを全力でかけたから転んだんだよ」


 ソイツはそれだけ言うと『出て行ってくれ、一人になりたい』と言いVさんを部屋から出した。彼の妄言に違いない、きっと痛み止めが効きすぎて意識が朦朧としていたのだろう。そう思い、ヤツが転んだ場所へ昼間に行ってみた。


 もう検証も終わり、すっかり自由に走れる道になっていた。そこをアイツが転んだ辺りまで走り、バイクを路肩に止めた。


 周りを見渡すが、老人の被害が出た様子はまるで残っていない。そもそもアイツがもし轢いていたのなら警察の事件になる。警察は一通りこの場を調べているはずなので、それで何も言われていないということは問題無いと判断されたからだろう。


 まわりを見回してみると、田の真ん中に何か白いかたまりのようなものがあった。気になったので恐る恐る近づいてみると、それは腰をへし折られた案山子に使われていたマネキンだった。


「と、まあこんなわけで俺はバイクを降りたんです。今ではコケたヤツもすっかり普通の生活を送っていますけど、いつ俺にあのマネキンのようなものが現れるか分かりませんからね」


 そう言っては無しを締めくくった。私は彼に具体的にどこで起きたことなのか訊ねたのだが、彼は『知らない方がいいですよ』と言い、頑なに場所を教えてくれなかった。

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