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日本怪奇譚集  作者: にとろ


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成長するシミ

 Xさんが住んでいたアパートで、彼は酷い目に遭ったそうだ。ただ、未だにアレが何なのか分からないので説明がつかないでしょうかと訊ねられ、話を伺うことにした。


 彼がある日帰宅し、部屋の中にカバンを投げ出しごろんと横になった。もう一月くらい休んでいないような気がする、服がしわになろうが、布団を敷くのさえ面倒で、ただただ眠りたかった。そして畳の上に寝転び意識が少し落ちたのだが、気がつくと一時間ほど経っていた。すこしだけ気分が冴えたので、水を飲もうと目を開けた。すると天井に僅かにシミがあった。


 ここは結構な築年数なので何も珍しいわけではない。管理会社に言うべきだろうか? まだ水が漏れてはいない、そして今は寝に帰っているようなものだ。


 アパートの大家には悪いと思わないでもなかったが、もし雨漏りの様子を見せてくれと言われ、立ち会うよう言われても困る。現在そんな時間に余裕があるわけがない。この先晴れる天気予報が出ているし、多分しばらくの間は持つだろう。


 そう考えて出社したXさん。その日はまったく雨が降っていないというのに夜に帰宅した時に、部屋の灯りをつけるとあのシミが大きくなっていた。


 おかしいと思った、もしかすると屋根裏に水が溜まっているのかもしれない。対処するべきだろうか? しかし現在もし屋根裏に水が溜まっていてそれがしみ出しているなら、工事は必須で天井を剥がすことになるだろう。そうなってしまうと一時的に住処をなくしてしまう。


 かんがえたXさんは見なかったことにすることにした。退去時に何か言われたら、最悪敷金を放棄してブッチすれば良いと覚悟を決めてシミと共存する道を選んだ。


 そうして寝て起きた時に、ふと上に何か液体になっているような物があるのではないかと思った。そのシミがどこか人間の顔っぽくなり続けているからだ。その考えは怖いにも程があるので部屋の中で上を見上げない生活を始めた。寝る時は布団を頭まで被って仰向けになっても天井が見えないようにした。見たくない者は見たくない、気にしなければ済むと信じて生活を続けた。


 しかし日が経つにつれシミは人間の顔のようになっていった。始めは目と鼻と口があるように見えるくらいだったのに、今では老人の顔が皺までハッキリ分かるほどに精緻になっていた。


 それでも引っ越しする気が起きずその部屋で過ごしていたのだが、ある日アパートの前に救急車とパトカーが止まっていた。いよいよだって事だと思い、野次馬に話を聞くと、自分の部屋の下に当たるところで貧乏暮らしをしていた若者が死んでいたという話だった。


 嫌な話だと思い、そろそろ出ていこうかと思ったところでふと気がついた。


 このアパートは二階建てだ。何故シミの原因が上の階にあると思って疑問を持たなかったのだろう? アパートを外から見れば一目瞭然のはずだ。


 結局、Xさんは死者が出たことより、そんな不思議な考えが頭に浮かんだことが怖くなりアパートを引き払った。


 大家はそろそろ崩そうと思っていたと言い、敷金を満額返してくれた。多分それは敷金という名の口止め料なのだろうと思いそこで何があったかは話さなかった。


 こうして話してくれている今でもXさんは絶対に場所が分からないようにしてくださいねと念を押していた。

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