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日本怪奇譚集  作者: にとろ


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霊園と飼い猫

 Cさんの実家近くには大きめの霊園があった。霊園自体に何も問題は無いのだが、問題はそこに巣くっている者だった。


「理由は分からないんですけど、霊園にいつもカラスがいるんですよ。霊園にカラスがいるっていうだけでも不気味なんですけど……」


 そこでいったん言い淀んでから彼女は言う。


 あの霊園のカラスに狙われた家は遠からず不幸があるって噂が立っていたんです。どうにも不気味で怖かったんですが、うちにカラスが飛んできたことは無かったんですよ。だから大丈夫なのかなと思いつつ、毎回そこの近くを通る時は嫌でもカラスが目に入るんです、うんざりしますよ。


 ただ、時折霊園でお備えを漁っているカラスが民家に飛び立っていくのを見ると胸騒ぎがしました。ただ、時代が時代なので近所一帯を巻き込んでの葬儀という物もなく、後になってそこの人が亡くなっていると両親にこっそり教えてもらうことも多かったです。その時に両親ともに『カラスのことは絶対に言うな』とキツく言われていました。


 そこで何があったのかは知りませんが、とにかく不気味で心配になるものでした。一番印象に残っているのはカラスが町中の一部区画に密集していた時です。そんなに一度に亡くなるはずも無いのでこればかりは関係ないなと思っていたら、その中の一件から寝たばこで延焼して数人の死者が出た時は背筋が冷えるものがありました。


 その時は寝たばこが非難のやり玉に挙がっていましたが、どうも私はタバコよりカラスの方が怖かったんです。なんならカラスが集まらなければ火事だって亡かったんじゃ無いかって思いますよ。


 そうして彼女は中学生になり、霊園に見えるカラスも減っていたので安心していた。そんな折、彼女の祖父が肺炎で入院した。


 その時は絶対に霊園の方を見ないようにしていました。見なければ良いってものでもないと分かるんですが、見てしまったら結果が確定してしまうような気がして必死に目を逸らしていたんです。お願いだからカラスに来ないで欲しいと思いました。


 祖父が入院して数日後です。うちは猫を飼っていたんですよ。クロっていう子猫の時代から世話をしていた猫なんですけど、もういい年であまり外に出たがらない横着者になっていました。でも外に出てそれきりっていうのも寂しいので家族は交代で世話をしていました。


 ある日、目が覚めるとクロがいなかったんです。猫は死期を悟ると消えるっていうので驚いて探し回ったら玄関で黑の鳴き声が聞こえました。玄関の鍵を開けてみるとそこにはクロとやや小ぶりなカラスが血を流して転がっていました。猫は獲物を捕まえて飼い主のところに持ってくるといいますが、クロがそんなことをしたのは初めてでした。それに最初の獲物がクロの身体よりやや小さいくらいのカラスです、驚きつつ家族を起こしてカラスの遺体を処分しました。


 その時電話が鳴ったんです。母が出ましたが病院からのものでした。祖父の体調が今朝急に安定したので一般病棟に移すという連絡でした。


 それで祖父は元気になって退院して、私の成人式を見届けた後に大往生だと言われながら逝きました。


 だから被害は無かったわけですけど……その後クロが急に熱を出して死んじゃったんですよ。年だったとはいえ、急なことだったので皆驚きました。私は今ではあの時のカラスは家に来ようとしていたものではなかったのかと思っています。きっと家をクロが守ってくれたんでしょう。


 ただ……一番の問題は私が成人した後です。霊園にすっかりカラスがいなくなったので、駆除されたのかと思って母にカラスのことを聞いたんです。すると母が言いました。


「アレはね、見える人にしか見えないの。だからクロが持ってきたカラスが皆見えた時はとっても驚いたし、その前にあなたがカラスのことを話した時も皆驚いたのよ。だからあなたにはカラスのことをいわないように言っておいたの。安心して、カラスが見えるのは成人前の子供だけだからね」


 そう言われてあの大量のカラスを誰も話題にしない理由が分かりました。大学を出て上京してからは実家に帰っていません。両親も会いたくなったら向こうからこちらにホテルを取って会いに来てくれます。


 これで彼女の不思議な体験は終わりだ。私は心底そういうものが見えなくてよかったと失礼ながら安心してしまった。

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