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日本怪奇譚集  作者: にとろ


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本の言い伝え

 聞いて欲しいんですけど、私は昔から本を雑に扱うなって教わったんですよ。


 そう言って翼さんは昔会った不思議な話を語ってくれた。


 本を粗末にするなとは聞いたんですが、その理由がフワッとしていたんですよね。当時は中学生で、好きで買っている本ならともかく、親が買ってきた『ためになる』本なんて興味がないでしょう? それで私は読みたい本だけ読んでいたんですよ。


 心当たりはある。ただでさえ『面白いから』と薦められた本が理解不能だったことは往々にしてある。それが子供の読解力を理解せず難しい本を買い与えたりすることは珍しくない。


「何か罰でも当たりましたか?」


 まあそのくらいの話だろうと思っていた。


「いえ、今でも夢のような気がするんですがね、本って粗末にすると恨んでくるんですよ」


「恨んでくる?」


 私は思わず聞き返してしまった。本が恨みという感情を得ることがあるのだろうか?


「ええ、当時の私はなんとなく昼寝がしたかったんですけどね、座布団で本を挟んで即席枕を作って横になっていたんです」


 まあ……きっと信じていただけないとは思うんですがね、その時に悪夢を見たんですよ。内容は覚えていないのですが、とにかく不快な夢だったことは覚えています。


「なるほど、本を枕にして悪夢を見たと」


 私はメモにペンを走らせる。珍しい話ではないが、付喪神のようなものだろうか?


「いえ、悪夢は偶然だったのかも知れません。ただ……起きたときに神に髪の毛が挟まれていたんです。その状態で体を起こそうとしたらいくらか髪がちぎれてしまいまして、結局ショートヘアにしないとならないほど髪はちぎれていました」


 本に食べられるとは珍しい。というか物理的に同行してくるような話は聞いたことがない。


 一回だけなら偶然かもしれないと思ったんですよ。私はその後も懲りずに本を枕代わりに使ったんです。そうしたら頬に髪で擦ったような傷がついていまして……ただですね、その時枕に使ったのは辞書なんですよ。ほら、辞書って肌を切るような紙は使われてないじゃないですか? 辞書ってペラペラですぐに折れ跡がついて肌に傷をつけることなんてできない気がするんですよ。でも辞書を見ると僅かに血がついていたんです。私はそれから本を粗末に扱うのはやめました。


「なるほど、本も大事に扱っていれば問題は無かったのですか」


 私がそう訊くと翼さんはクスッと笑って言った。


 いえ、部屋にある本を片っ端から古本屋に売ったんです。お金になるとかそんなこと気にしませんよ。実際引き取ることは可能だが値段はつけられないと言われたものまで引き取ってもらいました。本が無ければ問題ありませんからね。


 だから電子書籍というのは非常にありがたいものだと思っているんです。


 翼さんは最後にそう言って話を終わらせた。私は果たして電子書籍でも粗末にすると恨むのかということは未だ聞いたことが無い。ただ、私は大半の電子書籍リーダーにリチウムイオン電池が使われていることを考えると安心して良いものだろうかと老婆心ながら翼さんのことが心配になった。

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