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日本怪奇譚集  作者: にとろ


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二つの関係無い出来事

 Mさんが小学生の頃、まだMくんだった頃の話に遡る。彼は小学生の時、いじめられていたらしい。そこそこ昔の話にはなるのだが、今でも解決していない問題が四半世紀前に解決していたはずもないので、彼は学校に行くのを渋るようになったそうだ。


「祖母がね……昔はおばあちゃんって呼んでましたが『行きたくない!』と泣いても『いいから行き!』と怒鳴って背中を押しながら玄関を開けていたんです。私を押し出すなりぴしゃりと閉めて家から離れるまで鍵をかけている人でした。厳しかったんだと思います」


 祖母相手にいじめられているから行きたくないと正直に言ったこともあるんです。『そんなんりゆうにならん』と言われてそのままいつも通り登校させられたんです。


 私も病んできたんですが、ただ、それから間もなく祖母に急にガンが見つかったんです。もう手の施しようが無い状態だったそうであまり満足なお別れもできず逝ってしまいました。祖母はいよいよという時も『こんなとこに来ている暇があったら勉強しんさい』なんて言う人でした。厳しい人だったんですよ。


 それで祖母が亡くなり数日の忌引きでようやく学校を休んだんですよ。その間やはり悲しかったんですね、厳しい人でしたがやはり居なくなると寂しいものです。そのまま忌引きが終わったのですが、私は祖母があれだけ行けと自分の命より優先してまで行かせようとしていた学校に行くのがせめてもの弔いだと思って重い足取りで学校に行ったんです。


 そうすると私のいじめていたグループがいたんですが、そのグループが誰一人登校してこないんです。あのグループがいなければクラスメイトと話くらいは出来るので、アイツらがどうしたのか訊ねたんですよ。そうしたらソイツは……


『あー……アイツらね……』


 それから小声になって私が忌引きして居た頃の話をしてくれたんです。


『あんまり大きな声で言うなよ? アイツらさ、お前が休んでたじゃん。はけ口がなかったんだろ、万引きしてさ、それが見つかって全員が逃げ出したんだよ。ただ店員も生活がかかってるからな、必死に連中を追いかけたんだ。そうしたらアイツら歩道橋の上から下に飛び降りたんだ。大丈夫だと思ったんだろうな。でも下はアスファルトだぜ? 逃げ場がそっちしかなかったにしてもな……それで動けなくなったんだよ。ほら、町外れの歩道橋があるだろ? あそこだよ。多分連中も滅多に車の通らない道だからと高をくくってたんだよ。その時間の悪いことにトラックが通ってな……まあ死んじゃいないんだが、学校にはもう来れないらしいよ』


 とまあ偶然が重なって私はいじめから逃げることができて何とか普通の生徒として生活出来るようになったんです。


 私はその二つが偶然だとは思えなかった。突然ガンが見つかって突然いじめっ子が事故に遭うなんて事があるのだろうか?


 それとなく私はその問いをMさんにしたのだが……


「偶然です、絶対に偶然です。そうでも思わないと……私が学校に行くために一体どれだけの犠牲を出したと言うんです? そんなものには耐えられません。だからきっと偶然だと思っています」


 彼は無事大学を卒業し、一般的な企業に勤めているそうだが、毎年折に触れて祖母の墓参りを欠かさないようにしているらしい。

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