二十四時間
田舎から上京してきたTさんは、東京では電車を待たなくていいことに驚いたらしい。彼によると、『一つ逃しても一時間待たなくていいのはすごい』事らしい。しかし、それが当たり前となって奇妙な体験をすることになったそうだ。
上京して気が大きくなっていたんでしょうね、浪人もしていたので酒が飲める歳だったんですよ。となるとまあそう言う居酒屋なんかに入り浸るようになるんですよ。で、金が無くなって甲類焼酎を自宅で飲むというクズの見本みたいなことをしてたんです。
彼はそう語る。居酒屋に頻繁に通っていては金が続かないのも無理がないだろう。何しろ実家がそれなりに太いらしく、バイトなどしなくてよかったばかりに金銭感覚がおかしいまま東京に放り出されたのだ、無理もない。
まあ一応飲み仲間もできたんすよね。で、当然ですが安酒を飲んで気分が悪くなるようなことを繰り返してたんすよ。俺の部屋だったり飲み仲間の部屋だったりはしましたが、安く飲むにはピッタリでしたね。知ってますか? 甲類焼酎って所謂9パーセントよりアルコールが採りやすいんですよ。
アルコールを採りやすさで語るTさん、なかなか都会の世間にあてられていたようだ。
それである時仲間の部屋で飲もうとなったんですよ。そこまではよかったんですが、仲間を集めて飲もうとなったんですけど、誘ったソイツだけ同棲をしていたんですよ。当然そんなんそこで夜を明かすわけにはいかないじゃないですか。一人、二人と帰っていって、俺も空気を読んでもう帰るよって言ったんすけど、アイツ、空気を読まずに『泊まってけよ』なんて言うんです。
「邪魔はしたくないんでね」
それだけ言って駅に向かったんです。スマホを見ると午前二時を回ったところでした。そこから駅について改札を通り電車に乗って帰ったんですよ。その時は何の不思議も無い当たり前の方法だと思ったんですが、後日、呼び出したヤツから連絡が入りまして、『お前、終電逃したのに歩いたのか?』と来たんです。
スマホで時刻表をチェックすると、駅に着いた時間は終電が済んで、始発にも遠い時刻だったんです。でも確かに駅は煌々と光っていましたし、電車には大勢乗っていましたよ。その事をいくら主張してもまったく信じてもらえないんです。
仕方ないので次に会った時にスマホの移動ログを見せたんです。山手線の線路に沿ってその時間に移動したと記録されているんです。でもその友人は言うんですよ。
「ここ、なんか微妙に位置情報がズレているような気がするが……」
「ん? ああ、このくらいズレることはあるだろ?」
でもソイツは険しい顔をして言うんです。
「なあ、お前線路を一旦外れて神社にいたことになってるが……本当に電車に乗ったのか?」
話はそれで終わりです。結局俺はあの時間に一体何に乗ったんでしょうかね?
私には到底答えられない質問だった。