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日本怪奇譚集  作者: にとろ


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条件の良いサーバー

 Gさんが以前ゲームをしていた時の話だ。彼によると、別にオカルトではないが、むしろだからこそ怖い思いをしたのだという。


「アレが幽霊や妖怪の仕業だったら笑い飛ばすんですがね……」


 俺がそのゲームを知ったのは結構早い段階だったんです。サーバーのプログラムが配布されていて、ソレを使って自由にサーバを立て、ゲーム本体のクライアントに課金するシステムになっていました。


 興味はあったんですが、当時無職でクライアントを買う金が無かったんですよ。だからできるだけ見ないようにして気にしないことにしたんですよ。ただ、そのゲームが流行っていき、ついに我慢出来なくなったんすよ、親の財布からカードを抜いて番号を入力して決済して素知らぬ顔でカードを戻したんだよ。少額だし親もクレカの明細なんて見ている様子が無かったのでバレないだろうと思っていたんですよ。


 それから喜々としてクライアントをダウンロードしました。待ち時間の間にそのゲームの情報をwikiで調べたりもしていました。そこで自分の立てたサーバーの情報を公開して参加者を募る場所を見つけたんす。


 で、そのゲームなんですけど、一応3Dなのでそれなりに性能と回線速度が速くないとサーバーの中で不利になる仕様だったんです。だからできるだけ条件の良いところを探そうと思っていろいろ見たんすよ。


 そこで最適なサーバとマッチングするサーバのベンチサイトがあったんです。早速ベンチマークをやって、相性のいいサーバーを探したんです。当時は田舎に住んでいましたから、条件の良いところは少なかったんです。大半のサーバは仮想なりクラウドなりを使用していましたが、そういうのって関東に集中しているんですよ。だから光回線でも東京から離れるほど回線で不利になるんですよ。


 で、あまり多いとは言えない相性のいいサーバーを探したんですが、ものすごく早いサーバーがあったんですよ。ping値が極端に低い、すごく遅延の少ないサーバーでした。


 だから参加人数が少ないのは仕方ないとして、そのサーバーに参加することに決めました。そう決めたところでちょうどクライアントのダウンロードが終わったのでゲームを起動して、そのサーバーの情報を入力して接続しました。一瞬で接続が終わってログインしたんです。


 そこで彼は懐かしげな顔をした。


 そのゲームはサーバーを自由に弄れるって言いましたよね? 接続するとスポーン地点に真っ黒な地面が広がっていて、四方を壁で囲われた場所に出たんです。壁には『見ているぞ』と赤いフォントで書かれていました。そこで自分がクライアントを買うために使用したカードと、やたら条件が良かったことを思いだして、その理由が説明出来ることに気がついたんです。


 恐ろしくなってログアウトしてからさっさとバイトの求人誌を持ってきてバイトをして親には現金で使った代金を払っておきました。それ以来そのゲームはプレイしてないですよ。


 一般的にサーバとの通信は距離が近いほど早くなる。ということは彼の家から最も近い場所は……それが彼が真人間になった理由だそうだ。

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