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日本怪奇譚集  作者: にとろ


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時々のご馳走

 Tさんは子供時代、母親が所謂自然派で、お菓子の類いをまったく買ってもらえなかった。人によってはこういう時に人の家で出たお菓子をたっぷり食べるそうだが、彼の家ではそれがバレると体罰を受けるような有様だったのでそれさえも出来なかった。


「酷いもんですよ、ジャンクフードの何が悪いっていいたいんすかねえ。美味しければそれいいと思うんですが」


「まあ……育児の方針は人それぞれですから」


 私は適当に流そうとした。しかし彼はうんざりした顔をする。


「自分の子供にそこまで強制するのは勘弁してくれませんかね、別に自分がそうする自由はあると思いますが、子供にはそんな思想関係無いんですよ」


 どうも未だに根に持っているらしい。しかし問題はそこではないのだそうだ。


「それで、怪談のお話でしたよね?」


「ええ、怪談……だと信じている出来事がありまして、偶然だといえば偶然なのかもしれませんが、偶然が重なるにしては不自然なんですよ」


 それからようやく彼の体験を話してもらった。とは言っても、憶測の大いに混じったものではあったのだが。


 自然派だったというのは話しましたよ、ただ、時折なんですが、美味しいジュースが食卓に並ぶことがあったんですよ。食事中にジュースとか色々考えますが、当時のガキだった頃の自分はそんなことは考えませんでした。


 そのジュースなんですけど、天然ジュースなのかと思ったんですが、それにしてはやたらと甘いんですよ。合成甘味料でもあんな甘さは出せませんよ。うちの母親が砂糖さえ健康に悪いからとあまり使わなかったのに、どうやってあの甘さを出しているのかはついぞ分かりませんでした。


 ただね……印象に残っているのは甘さだけではないんですよ。


 そう言い、彼は少し声のトーンを落とした。


「俺は美味しいと思って飲んでたんですよ、家族全員にそのジュースは出ていたんですが、俺以外の家族はなかなか手をつけようとしないんですよ。俺からすれば、飲まないんならくれよって思いましたけど、親が親なのでそんなことは言い出せませんでしたけど」


 そのジュースが食卓に時々並び始めて数ヶ月後でした、先に祖父が亡くなったんです。それから数ヶ月で後を追うように祖母も亡くなりました。それで以降きっぱりとそのジュースは出なくなったんですよ。不満に思ってジュースをねだってみたんですが……『アレはもう要らないの! 余計なことを思い出させないで!』とキレてきたんですよ。あんまり語気が強いもので反論も出来ず黙り込んでそのまま味気ない食事で我慢したんですよ。


 と、まあこれが話の全てです。繋げようと思えば強引に個々の事実を繋げることができるかもしれませんが、実際のところは全て闇の中です。今は親元を離れているので真相なんて知りたいとも思いませんがね。


 彼はそう言って話を終えた。何一つハッキリしたところは無いのだが、単純な事実を繋げようとする人間の頭というものが少し恐ろしく思えたのだった。

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